東急デハ60形電車

東急デハ60形電車

東急デハ60形電車は、東京急行電鉄（東急電鉄）の前身である玉川電気鉄道で使用されていた電車です。その出自は、1925年に製造された木造ボギー電動車である31号形に遡ります。

概要

1938年、玉川電気鉄道が東京横浜電鉄に吸収合併された後、老朽化した31号形の車体を鋼体化することになり、その際に誕生したのがデハ60形の前身である71号形です。1939年に5両が川崎車両で製造されました。

玉川電気鉄道31号形

31号形は、世田谷線区間の開通に合わせて製造された木造電車でした。特徴としては、直径710mmの小径車輪、国産台車、前後のオープンデッキ、そして集電方式として用いられた前後2本のトロリーポール（ダブルポール）が挙げられます。窓配置は3連窓が4つ並ぶというものでした。同時期に製造された36号形（後の東急デハ20形電車）も同様の木造車でしたが、こちらは中引戸が付いていました。31号形が製造からわずか13年で鋼体化された背景には、車体の歪みが他の木造車両に比べて大きかったという事情がありました。

東横71号形

71号形は、鋼体化に際して中扉と1枚引戸が採用され、窓配置はD4D5Dという点対称の配置となりました。大型の二段上昇窓、中央が広めの変則3枚窓を持つ運転台、そしてダブルポール集電というスタイルは、当時の川崎車両製の車両に共通するデザインでした。種車の台車や電機品を流用したため、710mm車輪の中低床構造、直接制御方式はそのまま引き継がれました。

東急デハ60形

東京急行電鉄発足時に、71号形はデハ60形に改番されました。戦後には連結総括制御化が行われ、座付自動連結器の設置、間接非自動加速（HL）制御器への変更、非常管付直通制動（SME）化といった改造が施されました。また、デハ40形との間で台車交換が行われ、810mm車輪を装備することで高床化されました。集電方式は、1949年にビューゲル、1956年にはパンタグラフへと変更されました。さらに、車体中央方向に引き込む構造であった前後引戸が、乗務員室方向に引き込む2枚引戸に変更されています。

晩年は、鉄道線であった砧線で使用されました。砧線内には急曲線が存在したため、玉電標準装備の座付自動連結器では連結運転ができず、続行運転で対応していました。これを解消するため、京急の地下鉄乗り入れに伴う連結器交換で余剰となったK2A形密着連結器が、一部車両に取り付けられました。ただし、片運転台化は行われず、重連運転や玉川線・砧線での単行運転にも引き続き使用されました。

1969年5月11日、玉川線・砧線廃止とともに、デハ60形も全車廃車となりました。廃止に際しては、65号が花電車として最後の花道を飾りました。

廃車後

廃車後、デハ60形は全車こどもの国に引き取られ、園内に展示されましたが、露天に置かれたため荒廃が進み、後に解体されました。

デハ60形は、玉川線の歴史を語る上で欠かせない存在であり、その変遷は、玉電の近代化の過程を象徴するものと言えるでしょう。

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