東武モハ5300形電車

東武モハ5300形電車の概要

東武モハ5300形電車は、かつて東武鉄道で使用されていた通勤形電車であり、1947年に運輸省が制定した「私鉄郊外電車設計要項」に基づいて製造されました。この車両は、戦後の混乱の中で資材の不足が深刻化していた時期に、効率的な資材活用を図るために設計された規格形車両の一つです。

車両の製造と背景

1947年度、東武鉄道は運輸省から12両分の新製割り当てを受け、1948年にモハ5300形5300から5307号とクハ330形330から333号の合計12両が日本車輌製造東京支店および汽車製造によって製造されました。この規格形車両は、戦後の利用客の急増を考慮して、従来のクロスシートや車内トイレなどの長距離運用に必要な設備を省略し、純粋な通勤形車両として設計されています。

モハ5300形は、戦後に実施される新たな車両形式番号付与基準のもと、竣功直前にモハ5700形およびクハ700形から新しい形式名に改称されました。これにより、東武は新基準に基づく初の車両形式を持つことになりました。

車体と構造

この電車の車体は半鋼製であり、設計要項のA'型に準拠していますが、国鉄から譲受した台枠を流用しているため、規格通りの寸法を逸脱し、車体長は16,400mmという独自のサイズに設定されています。そのため、本形式は旧国鉄の「大形2AB車」と同じ車体長とされることが特徴です。

前面が平妻構造である本車両は、運転台側には貫通扉がなく、全室運転室を持つ設計です。運転台窓上には外気取入用の通風孔があり、屋根上にはモハ5300形5個、クハ330形6個のガーランド形ベンチレーターが配置されています。車内はロングシート仕様で、近距離運用に特化されトイレは設置されていません。

主要機器と性能

本形式は、運輸省の設計要項に従い、主要機器にも特定の規定が設けられています。

まず、主制御器には国鉄制式の電空カム軸式CS5を採用し、主電動機は東洋電機製造のTDK-528/9-HMを搭載しています。この主電動機は、750V時の出力が110kWであり、その他の電動車両と比べて高回転特性を持ち、吊り掛け式の駆動方式が採用されています。

台車については、モハ5300形は住友鋳鋼所製のKS33E台車を使用しており、クハ330形・430形には国鉄からの払い下げ台車TR11が装着されています。それぞれの台車には平軸受が使用され、信頼性の高い運行が可能です。

越えた時代と形式再編

モハ5300形は、1957年までに形式番号の再編が実施され、モハ3200形・3260形・5200形・5430形・クハ420形といった新しい形式名に改称されました。これにより多くの車両が新しい技術や車両形態に適した構造に改造されることになります。

戦後に特急運転が再開されると、7200形の多くが特急用に転用され、その性能向上を図るためにモハ5300形から主要機器が譲渡されることもありました。

最後の運用と消滅

モハ5300形は、1973年に運用を終えるまでに多くの改造や再編を経て、最終的には野田線などのローカル路線で使用されるようになります。その後、東武鉄道における運輸省規格形車両全てが更新され、モハ5200形をもってこの車両の形式が消滅しました。

本形式は、戦後の日本の通勤電車の歴史において重要な位置を占めており、その設計理念は今も多くの後継車両に受け継がれています。

参考文献

• - 青木栄一・花上嘉成『私鉄車両めぐり（44） 東武鉄道 その3』鉄道ピクトリアル第117号
• - 中川浩一『私鉄高速電車発達史 (5)』鉄道ピクトリアル第170号
• - 他たくさんの資料を基に作成

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