東郷健

東郷健（1932年-2012年）は、日本の社会運動家、政治活動家として、特異な存在感を放つ人物でした。彼は、同性愛者であることを公表し、マイノリティの権利擁護、性差別撤廃、エイズ啓発など、数々の社会問題に取り組みました。その活動は、常に型破りで、時に物議を醸すこともありましたが、一貫して弱者への共感と、社会正義への強い意志を貫き通しました。

複雑な生い立ちも、彼の人生に大きな影響を与えました。兵庫県加古川市に生まれた東郷は、代々政治家一家に繋がる家系に生まれながらも、家庭環境や相続問題により、家族と絶縁状態になりました。異母兄弟との確執、経営失敗による多額の借金など、数々の困難を経験しながらも、彼は持ち前の明るさと粘り強さで、困難を乗り越えて行きました。

関西学院大学商学部卒業後、銀行員やガソリンスタンド経営などを経て、ブロイラー養鶏場を経営するも失敗。多額の負債を抱えた彼は、返済のため1963年、姫路市でゲイバー「るどん」を開業しました。しかし、従業員や行政とのトラブルにより廃業。その後、東京に出て、銀座のゲイバーで働きながら、1968年には自身のゲイバー「とうごうけん」を経営するなど、精力的に事業を展開しました。

東郷健の活動は、ゲイバー経営に留まりませんでした。彼は、ゲイ雑誌「The Gay」「The Ken」の編集長を務め、ゲイビデオの制作、エイズ啓発活動、ゲイのための診療所の開設、ゲイ・ゲームズ支援なども行いました。こうした活動は、当時タブーとされていた同性愛問題に光を当て、多くのゲイコミュニティに大きな影響を与えました。

政治活動においては、雑民党を結成し、参議院議員通常選挙、衆議院議員総選挙、東京都知事選挙などに度々立候補しました。しかし、いずれも落選しました。選挙活動では、反資本主義、反権力といったスローガンを掲げ、政見放送や選挙公報で「ゲイ」「ホモ」「オカマ」などの言葉を使用し、社会に衝撃を与えました。1990年の第39回[[衆議院議員総選挙]]では、地球維新党から出馬し、当時としてはタブーとされた言葉を用いることで、世間を騒がせました。

東郷は、選挙活動を通じて、同性愛者としての自身のアイデンティティを積極的に発信しました。しかし、一方で、同性愛者の蔑称である「オカマ」という言葉を多用したことに対しては、批判も存在します。彼の活動が、同性愛者に対する偏見を助長したという意見もあります。

社会党との関係も複雑でした。彼は日本社会党に好意的でしたが、『週刊ポスト』の対談で、社会党の向坂逸郎から同性愛を「病気」呼ばわりされ、対立を招きました。しかし、その後、社会民主党や社会主義協会は、向坂の発言を批判し、謝罪しました。東郷は晩年まで新宿ゴールデン街や新宿二丁目でバーを経営し、1970年代に制作された伝説のレコード『薔薇門』をCD化再発するなど、精力的に活動を続けました。

2012年、前立腺癌により79歳で死去しました。彼の死後も、彼の活動は多くの人々に記憶され、多様な性を持つ人々の権利擁護に貢献した人物として、評価されています。東郷健は、自身の性同一性を隠すことなく、政治活動や社会活動に生涯を捧げました。彼の生き様は、時代を超えて多くの人々に議論と、そして問いかけを投げかけ続けていると言えるでしょう。

彼の著作には、『隠花植物群―男と男の愛の告白』『ホモの道を行く』『雑民の論理』『常識を越えて―オカマの道、七〇年』などがあります。また、寺山修司と共同で企画したアルバム『薔薇門』も有名です。これらの作品を通して、東郷健の思想や生き様を知ることができます。

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