松岡則方

松岡則方：鹿島神宮大祝にして剣豪、松岡兵庫助

松岡則方（まつおか のりかた）は、戦国時代に鹿島神宮の大祝を務めた人物であり、同時に塚原卜伝に始まる鹿島新当流の剣豪、松岡兵庫助（まつおか ひょうごのすけ）としてもその名を知られています。

鹿島神宮大祝としての役割

大祝（おおほうり）とは、祭礼の際に祝詞を奏上する役職のことです。『鹿島神宮誌』に所載されている系図によれば、則方は天正年間の大祝を務めていたとされています。神職としての側面も持ち合わせていたことがわかります。

剣豪としての側面

松岡則方は、剣術家としても名を残しています。師については諸説あり、塚原卜伝本人から学んだという説、卜伝の養子である塚原幹重と、卜伝の弟子である川島卜平の二人から学んだという説があります。いずれにしても、鹿島新当流の正統な後継者であったことは疑いありません。

徳川家康への兵法伝授と恩賞

『天真正伝新当流兵法伝脈』によれば、則方は子の時備（ときなり）と共に徳川家康に対し、新当流の兵法を余すところなく伝授したとされています。特に「唯授一人（一の太刀）」を含む奥義を伝えたことは、家康にとって非常に価値のあるものだったと考えられます。その功績により、家康から「御直紙・御誓紙・御腰刀・御時服」といった数々の褒賞に加え、田野辺（現在の鹿嶋市沼尾）にある松岡屋敷周辺に知行40石、後に120石が与えられたと伝えられています。

現存する松岡家の資料には、この「一の太刀」伝授に対する家康の謝意と、新当流を疎略にしない旨を記した誓紙が残されています。これは、則方と家康の間に深い信頼関係があったことを示す貴重な証拠と言えるでしょう。

塚原卜伝との関係

剣聖・塚原卜伝は晩年を松岡家で過ごしました。これは、則方が卜伝の弟子筋であったことに加え、卜伝の実兄である吉川常賢の娘婿であったという縁戚関係も影響していると考えられます。卜伝のような剣の大家が、弟子であり親戚でもある則方の元で晩年を過ごしたことは、則方の人となりや剣の腕前を物語るエピソードと言えるでしょう。

松岡派新当流の継承

則方の新当流は、子の時備以降も松岡派として受け継がれ、幕末までその流派は存続しました。戦国時代から幕末まで、長きにわたり剣術の流派が存続したことは、則方の剣術の才能と指導力の高さを物語っています。

まとめ

松岡則方は、鹿島神宮の大祝という神職の傍ら、塚原卜伝から鹿島新当流を受け継ぎ、剣豪・松岡兵庫助として名を馳せた人物です。徳川家康への兵法伝授という功績と、塚原卜伝との深い関係を通じて、その名は歴史に刻まれています。


参考文献
近藤敏喬 『古代豪族系図集覧』東京堂出版
綿谷雪 『考証武芸者列伝』三樹書房
今村嘉雄、小笠原清信、岸野雄三（編） 日本武道全集 第2巻『剣術』、人物往来社
岡田一男 『剣豪史談』新人物往来社

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