松島富之助

松島 富之助

松島 富之助（まつしま とみのすけ、1923年 - 1976年5月18日没）は、昭和期に活躍した日本の小児科医であり、子どもの健康と福祉の向上に深く関わった人物です。臨床現場での診療に加え、研究者としての知見を基に、後進の育成や一般市民向けの啓発活動にも力を注ぎました。

略歴

松島氏は、現在の兵庫県にあたる美方郡で生を受けました。日本の最高学府の一つである東京帝国大学の医学部で学び、医学の道を志します。大学卒業後も研鑽を積み、1954年には母校である東京大学から医学博士号を授与されました。これは、小児科学分野におけるその後の研究活動の礎となるものです。

専門医としてのキャリアにおいて、松島氏は複数の重要な医療機関や団体で要職を歴任しました。愛育病院では小児科医として多くの乳幼児の診療に携わり、また愛育研究所の栄養部では、子どもの健全な成長に不可欠な栄養に関する研究に取り組みました。特に、東京警察病院においては小児科の部長を務め、部門の運営と質の高い医療提供に貢献しました。さらに、小児保健の普及と発展を目指す小児保健協会の理事としても活動し、日本の小児医療・保健体制全体の底上げに尽力しました。これらの経歴は、松島氏が臨床、研究、そして公共的な活動と、多角的に子どもの健康問題に関わっていたことを示しています。

主な著作・共編著

松島氏は、幅広い読者層に向けた数多くの書籍を世に送り出しました。専門家が学ぶためのテキストから、子育てに悩む親が手にする育児書まで、その著作は多岐にわたります。以下にその一部を示します。

『新生児及び乳児保育』（日本学芸協会、1968年）
文部省認定の社会通信教育「保育課程講座」の一部として用いられた、新生児および乳児の保育に関する専門的な内容です。
『育児全科 0歳から3歳まで』（家の光協会、1971年）
生後間もない時期から3歳までの子どもを持つ親向けに、育児に関するあらゆる疑問に答える形でまとめられた実践的な育児書です。
『小児保健実習』（同文書院、1972年）
小児保健の実践方法について解説した専門家向けの書籍であり、教育現場でも活用されました。
『こどもの病気』（フジテレビ総合研究所、1973年）
「幼児の発達百科」シリーズの一冊として、子どもの代表的な病気について、親が理解しやすいように解説されています。
『育児相談』（金原出版、1975年）
「金原医学新書」として刊行され、親から寄せられる具体的な育児の悩みや疑問に対して、医学的な見地から丁寧に回答しています。
『子どもの病気 応急手当てと予防のしかた』（あすなろ書房、1980年）
松島氏の没後に出版されましたが、子どもの急な病気に対する応急処置や、病気を予防するための方法について、親がすぐに役立てられる情報を提供しています。

共編著としては、以下のような重要な著作に関わっています。

『最新育児学』（同文書院、1962年）
内藤寿七郎氏、宮崎叶氏ら、当時の小児科・育児学の第一人者たちと共著で、育児学の最新の知見をまとめたものです。
『小児の情緒障害』（医学書院、1970年）
内藤寿七郎氏監修のもと、高橋種昭氏と共に編纂。子どもの心の健康問題、特に情緒障害に焦点を当てた専門書です。
『赤ちゃんの発育 育児の不安をなくす』（ひかりのくに、1975年）
星美智子氏との共著。赤ちゃんの月齢ごとの発育段階を分かりやすく解説し、親が抱きがちな育児の不安を軽減することを目指した書籍です。
『乳児保育』（同文書院、1976年）
二木武氏、金子保氏との共著で、乳児の保育に関する実践的な内容を含んでいます。
『世界の子ども・親 オーストラリア・イギリス・フランス・ベルギー・西ドイツ・スウェーデン・ソ連・カナダ・アメリカ』（資生堂社会福祉事業財団編、1977年）
松島氏らが執筆に関わり、没後に出版されたもの。世界の国々の子育てや親子関係について比較文化的な視点から論じています。
『最新育児学 第4版』（同文書院、1995年）
内藤寿七郎氏が編者を務め、以前共著に関わった『最新育児学』の改訂版にも名前が残されています。

これらの著作活動を通じて、松島氏は専門家間の知識共有を促進し、また一般家庭に対しては科学的根拠に基づいた適切な育児情報の提供に貢献しました。その業績は、今日の日本の小児医療や子育て支援の基盤を築く上で重要な役割を果たしたと言えるでしょう。

もう一度検索