松平忠恕 (島原藩主)

松平忠恕：激動の時代を生きた悲運の藩主

松平忠恕（まつだいら ただひろ）は、江戸時代中期に下野国宇都宮藩と肥前国島原藩の藩主を務めた大名です。深溝松平家11代当主として、数々の困難に見舞われた生涯を送りました。

生涯

元文5年（1740年）、島原藩主・松平忠刻の次男として生まれました。宝暦12年（1762年）、兄・忠祇の隠居により家督を継ぎます。深溝松平家は代々島原藩主として、九州における幕府の隠れ目付役を担っていましたが、忠恕が家督を継ぐ以前、先代の藩主の急死により、宇都宮藩へ移封されていました。

忠恕が家督を相続した当時、宇都宮藩への移封によって藩の財政は困窮していました。豪商からの借用や家臣の俸給を借り上げるなどしましたが、いずれも一時しのぎに過ぎず、明和元年（1764年）には百姓への増税を余儀なくされました。これに対し、同年9月12日に農民による大規模な一揆（籾摺騒動）が発生。忠恕は藩兵300人を動員して武力鎮圧し、首謀者を処刑しました。

しかし、その年のうちに宇都宮は大洪水に見舞われ、多数の家屋が流出し、死者も出ました。その後も度重なる洪水や火災に見舞われ、安永2年（1773年）には城下で大火が発生し、甚大な被害をもたらしました。

安永3年（1774年）、忠恕は再び島原藩へ移封されますが、この際にも多額の費用がかかり、藩財政を圧迫しました。

寛政4年（1792年）4月1日、普賢岳眉山が崩落し、島原城下を埋没させる大災害（島原大変）が発生。死者は1万5千人に及ぶとも言われています。病弱であった忠恕は被災地を巡視するなど尽力しましたが、心労が重なり、同年4月27日に死去しました。その生涯から「悲運の藩主」と呼ばれています。

人物

忠恕は、藩財政の立て直しや災害からの復興に尽力しましたが、相次ぐ災厄に見舞われ、その多くは成功しませんでした。増税による農民一揆の発生や、島原大変といった未曾有の災害への対応など、藩主として苦難の連続でした。

参考文献

坂本俊夫『宇都宮藩・高徳藩』現代書館〈シリーズ藩物語〉、2011年9月。ISBN 978-4768471289。
白石一郎『島原大変』文藝春秋（1985年）、後に文庫。病身の忠恕が噴火災害の心労で亡くなるまでを御典医の視点から描く歴史小説。 第87回直木賞候補作。

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