松平斉宣

松平斉宣：将軍の息子、明石藩主の波乱の生涯

松平斉宣は、江戸時代後期の明石藩8代藩主として知られる人物です。将軍徳川家斉の二十六男という高貴な出自を持ちながらも、その生涯は数々の困難と謎に彩られています。

幼少期と藩主就任

斉宣は、11代将軍徳川家斉と本輪院（諸星信邦の養女）を両親に持ち、12代将軍徳川家慶の異母弟にあたります。同母兄には福井藩主の松平斉善や、川越藩の嫡子だった松平斉省がいました。天保11年（1840年）、明石藩主・松平斉韶の養嗣子として迎えられ、藩主の座を継承します。しかし、この就任は、斉韶の嫡男である直憲（後の慶憲）を差し置いてのことであり、直憲の生母は悲嘆のあまり亡くなったと伝えられています。将軍の子息が藩主となったことで、明石藩の石高は6万石から8万石へと増加しましたが、斉宣はさらに10万石への加増を要求したとも言われています。この要求は、結果的に明石藩の財政を圧迫する要因となりました。

短命な藩主と謎の死

斉宣は、天保15年（1844年）、わずか20歳で病没します。嗣子がなかったため、先代藩主の嫡男である直憲が後を継ぎました。短期間の藩主在任期間にもかかわらず、その存在感は大きく、明石藩の歴史に深い影を落としたと言えるでしょう。

華麗なる官歴と複雑な身分

斉宣の官歴は華々しいものでした。従四位上に叙位され、侍従、兵部大輔、左近衛権少将を歴任しました。家督相続後には、石高10万石格という特別な地位を与えられましたが、これは財政上の負担を増やす結果にも繋がりました。

尾張藩領での事件と歴史的評価

斉宣に関する最も有名な逸話として、参勤交代の際に起こった事件が挙げられます。当時、斉宣は3歳の幼児を処刑したとされ、この事件は、肥前平戸藩主の松浦静山が著した随筆『甲子夜話』にも記されています。しかし、この事件に関する確固たる史料は発見されておらず、真偽は不明です。この事件は、後に映画『十三人の刺客』の題材にもなりました。映画では、明石藩主は「将軍家の弟の松平斉韶」とされていますが、小説版では斉宣となっています。

家系とその後

斉宣の父は徳川家斉、母は本輪院です。正室は酒井忠実の娘・桃でした。養子には、先代藩主の嫡男である松平慶憲が迎えられました。

結論

松平斉宣は、将軍の息子という恵まれた出自を持ちながらも、藩政運営の困難や謎に包まれた事件など、波瀾に満ちた生涯を送りました。彼の短い人生は、権力、財政、そして人間の業といった複雑な要素が絡み合った、興味深い歴史の一断面を示しています。彼の生涯に関する史料は限られていますが、後世に残された伝承や逸話を通じて、その生涯を想像し、歴史を学ぶことができます。今後の更なる研究によって、彼の生涯にまつわる謎が解き明かされることを期待したいところです。

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