松平直樹

日本の歌手、松平直樹は、ムード歌謡のグループ「和田弘とマヒナスターズ」の主要メンバーとして、特にその甘く柔らかな歌声で広く知られる存在でした。1934年（昭和9年）3月22日、東京府東京市に生まれた彼の本名は松平壽夫。学生時代から音楽に親しみ、立教大学を卒業しました。

大学在学中より学生バンドとして活動していた松平は、1955年（昭和30年）に和田弘が率いるマヒナスターズにボーカリストとして加わります。そこで彼は、同じくボーカルを担当していた三原さと志とともに、グループの顔として活躍。その類まれなる甘い歌声は多くの聴衆を魅了し、マヒナスターズの輝かしい黄金時代を支え、当時の日本の音楽シーンで一世を風靡するほどの人気を獲得しました。

1970年（昭和45年）、松平直樹はマヒナスターズから独立し、自身の名を冠したグループ「松平直樹とブルーロマン」を結成します。この新グループでは、「幸せになってね」といった楽曲を発表。この曲は後に歌詞やアレンジが変更され、敏いとうとハッピー＆ブルーによって「わたし祈ってます」として大ヒットを記録するなど、後世にも影響を与える作品となりました。

しかし、ブルーロマンは1983年（昭和58年）に解散。その後、松平はしばらくソロ歌手として活動を続けます。単独でのステージやレコーディングにも意欲的に取り組みました。

1985年（昭和60年）、彼はかつて所属したマヒナスターズに復帰。さらに1989年（平成元年）には、マヒナスターズの全盛期を築き上げたオリジナルメンバーが集結した再結成にも加わるなど、再びグループでの活動にも力を入れ始めます。

2002年（平成14年）には、再び和田弘のもとを離れるという選択をします。そして、長年の盟友である三原さと志、そして独特の裏声でグループに彩りを添えた佐々木敢一らとともに、新たなグループ「ザ・マヒナスターズ」を結成し、活動を再開します。彼らはマヒナスターズの伝統を受け継ぎながらも、新たなスタイルでの活動を目指しました。

ところが、この時期にマヒナスターズの名称を巡って、和田側との間で商標登録に関する問題が発生します。このため、ザ・マヒナスターズは一時的にグループ名を「アロハスターズ」と改めて活動を続けることを余儀なくされます。商標問題が解決に向かっている最中であった2004年（平成16年）1月5日、マヒナスターズを率いてきたリーダーの和田弘が急逝。和田の死後、グループは改めて正式に「ザ・マヒナスターズ」として、その歴史と看板を守りながら活動を続行しました。

晩年も日本のムード歌謡界への貢献を続けましたが、2022年（令和4年）6月11日、肺炎のため東京都内の病院で88年の生涯に幕を閉じました。彼の死去に際し、葬儀の喪主は長男が務めています。

松平直樹は、和田弘とマヒナスターズの看板ボーカリストとして、また自身のグループや再結成、新たなマヒナとしての活動を通じて、日本の音楽史、特にムード歌謡のジャンルにおいて、その甘い歌声とともに確かな足跡を残しました。

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