松曳き

松曳き（まつひき）

松曳きは、日本の古典落語の代表的な演目であり、粗忽者をテーマにしたストーリーが特徴です。別名には「粗忽大名」や「主従の粗忽」などがあります。特に演じることが得意だったのは、2代目三遊亭小圓朝や7代目立川談志で、談志は自身のスタイルを「イリュージョン落語」と名づけ、さらに深い表現を求めたと述べています。彼の著書『人生、成り行き―談志一代記』の中では、落語が「弱い人間の業」を肯定するものであり、イリュージョンがその中核をなすのではないかと自問自答しています。

あらすじ

物語は、ある町に住むおっとりとした性格の殿様と彼の家老、三太夫の二人が中心に進行します。殿様は庭にある赤松の位置を変更したいと考えており、その松は先代から受け継がれたもので、非常に大切な存在でした。松は成長するにつれて月を隠すようになり、それが移動の理由となっています。しかし、殿様はその松を枯らすことになると先代に申し訳が立たないと感じ、専門家である植木屋に頼むべきだと三太夫が提案します。

植木屋が屋敷に呼ばれた際、三太夫は殿様の前での言葉遣いに注意するように厳命します。このため、植木屋は全ての動詞や名詞に「御～たてまつる」をつけて丁寧に話すことになり、結果的にはかえって滅茶苦茶な会話になってしまいます。それにも関わらず、植木屋は無事に松を移すことに成功し、殿様は大いに喜びます。その結果、殿様は植木屋を招き、庭で一緒に酒を飲み交わすことに決めました。

その最中、三太夫には国元から特急の書状が届きます。内容を確認すると、国表にいる殿様の姉が亡くなったことが記載されており、彼は慌てて殿様にその旨を報告しに走ります。殿様は非常に驚き、いつ亡くなったのかと尋ねますが、三太夫は慌てて読み飛ばしてしまったため、もう一度書状をしっかりと読むことにします。ついに三太夫は言葉を整理し、実は殿様でなく自身の姉が亡くなったことを理解します。

その瞬間、三太夫は申し訳の立たなさを感じ、切腹しようと決意します。しかし、使者はまず殿様に報告をするべきだと喚呼し、彼を止めることに成功します。話を聞いた殿様は激怒し、いくら粗忽者であったとしても、今回の失態は許されないと切腹を命じます。

三太夫は親愛なる姉の死と、自身が切腹しなければならない状況に対し涙を流しつつも覚悟します。そのとき、殿様が「なぜ切腹を止めるのか」と問われ、「実は余には姉はいないのだ」と告げます。この言葉によって、皮肉にも二人の粗忽さが同時に場を和ませ、笑いを呼び起こすところが、この落語の醍醐味となっています。丸く収まったストーリーは、松曳きの真髄を見せつける美しい幕引きです。

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