松本信廣

松本信廣（1897年11月11日 - 1981年3月8日）は、大正から昭和にかけて活躍した日本の民俗学者、神話学者です。

生涯と学問

1897年、東京市港区に生まれた松本は、慶應義塾大学文学部史学科を卒業後、同大学の教員となりました。1924年からはフランスに留学し、ソルボンヌ大学でマルセル・グラネやマルセル・モースといった著名な学者たちと交流し、東洋学研究に励みました。1928年には文学博士号を取得し、帰国後、慶應義塾大学文学部助教授、後に教授に昇任。1969年に定年退職するまで、長きにわたり教鞭を執り続けました。

松本は、学界においても重要な役割を果たしました。日本民族学協会理事長、日本歴史学協会委員長、東南アジア史学会会長を歴任し、日本学術会議会員にも選出されています。また、慶應義塾大学在職中は文学部長や言語文化研究所長を務めるなど、大学運営にも貢献しました。

柳田國男との出会いと南方文化研究

1918年、松本は柳田國男に師事し、日本民族学の研究を始めました。柳田が主宰する研究会にも積極的に参加し、古代の舟や稲作文化の研究を通して、日本文化の南方起源説を早くから提唱しました。日本神話と南方神話の比較研究から、日本民族の基層文化に南方民族の血が流れていると主張し、そのことが日本の南方進出の優位性を支えると論じました。しかし、戦後には、戦時中の国家主義的な利用に対して、宗教の本質は聖と俗の区別であると批判的な見解を示しています。

研究内容と業績

松本は、沖縄や東南アジアの研究の先駆者としても知られ、伊波普猷、柳田國男、上田万年、白鳥庫吉、新村出、折口信夫、金田一京助らと共に「南島懇話会」を組織しました。彼の研究領域は歴史、民族、宗教、言語、考古学と多岐にわたり、特に日本の神話・昔話の研究は、現代の研究においても重要な基盤となっています。現在、日本神話の一部に南方神話の影響があるという説は定説となっており、松本の業績は広く認められています。

また、松本は中国江南における考古学調査も実施しました。没後、彼の蔵書は慶應義塾大学に寄贈され、同大学付属図書館松本文庫として公開されており、研究者にとって貴重な資料となっています。

主な著作

松本は、多くの著作を残しました。代表的なものとして、『江南踏査』（1941年）、『印度支那の民族と文化』（1942年）、『日本神話の研究』（1946年、1971年新訂版）、『日本の神話』（1956年）、『東亜民族文化論攷』（1968年）、『ベトナム民族小史』（1969年）、『日本民族文化の起源』（1978年）などがあります。



松本信廣は、民俗学、神話学の分野において、日本文化のルーツを深く探求し、その学術的貢献は今日においても高く評価されています。

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