松本雄吉

松本 雄吉（まつもと ゆうきち）

日本の演出家。劇団維新派の創設者にして主宰として、20世紀後半から21世紀にかけての日本の現代演劇において、独特かつ革新的な表現世界を切り拓いたことで知られる。

1946年、熊本県に生を受ける。幼少期をこの地で過ごした後、大阪教育大学に進学し、美術を専門に学ぶ。大学で演劇活動に触れたことが、後のキャリアに繋がる契機となった。

1968年には「舞台空間創造グループ」を立ち上げ、演劇創作の模索を開始。そして1970年、その母体を発展させる形で劇団維新派を正式に創設した。維新派は結成当初から、既存の劇場空間にとらわれず、関西地方を中心とした野外を主たる上演の場とすることを選んだ。独特なセットを組み、身体表現、音楽、美術、そして古層の日本語を思わせるリズミカルなセリフ回しを融合させたそのスタイルは、他の劇団とは一線を画し、強烈な個性と様式美を確立していった。

活動の拠点を築くため、1981年には大阪府堺市に稽古場と劇場機能を兼ね備えた空間「化身塾」を開設。ここでは、作品の創造だけでなく、劇団員との共同生活を通じて、維新派独自のカンパニー体制が培われた。この「化身塾」は、松本雄吉の演劇哲学が息づく重要な場所となった。

維新派の作品群は、日本国内で高い評価を獲得していく。1999年には、代表作の一つである『水街』で大阪府舞台芸術賞を受賞。続く2002年には、『カンカラ』で朝日舞台芸術賞を受賞し、その芸術性が広く認められた。これらの受賞は、維新派が野外演劇という特異な形式を追求しつつも、演劇界の中心で確固たる地位を築いたことを物語っている。

また、松本雄吉と維新派の活動は、海を越えても注目を集めた。2000年には、オーストラリアで開催されたアデレードフェスティバルで初の海外公演を実現。これを皮切りに、維新派の舞台はヨーロッパ、南米、オセアニア、シンガポールなど世界各地へと招かれるようになる。言葉の壁を超えた身体的な表現と、土地の記憶を呼び覚ますような空間演出は、各国の観客に強い印象を与え、国際的な評価を不動のものとした。

長年の多岐にわたる功績に対して、数々の栄誉が贈られた。2011年には、芸術分野における功績が認められ、紫綬褒章を受章。さらに、活動拠点である大阪への貢献も高く評価され、2013年には大阪市市民表彰、2014年には大阪市文化祭賞優秀賞、そして2015年には大阪文化賞を受賞している。

日本の演劇界に独特な光を放ち続けた松本雄吉であったが、病には勝てず、2016年6月18日、食道癌のため大阪市内の病院で永眠した。享年69歳。その突然の訃報は、多くの関係者やファンに深い悲しみをもたらした。

松本雄吉が維新派と共に創り上げた野外演劇の様式は、日本の現代演劇史において重要な位置を占める。その活動や思想については、『蜷川幸雄×松本雄吉 二人の演出家の死と現代演劇』、『維新派・松本雄吉』、『漂流の演劇（維新派のパースペクティブ）』といった書籍によって今日に伝えられている。彼が残した独特の舞台空間と表現への探求は、後進の演劇人に大きな影響を与え続けている。

もう一度検索