松林要樹

松林要樹（まつばやし ようじゅ）

1979年、福岡県に生まれた松林要樹は、日本の映画監督であり、主に社会派ドキュメンタリー作品で国際的な評価を得ています。

経歴

松林氏は2004年に日本映画学校（現在の日本映画大学）を卒業しました。卒業制作として、自身が監督と編集を務めた『拝啓人間様』を発表しています。卒業後、その視線は広く世界に向けられました。

2005年には、アフガニスタンやインドネシアのスマトラ島沖地震で被災したアチェなど、国内外の困難な地域での映像取材に精力的に取り組みました。アフガニスタンでの選挙取材は、フジテレビの報道番組「ニュースJAPAN」で複数回にわたり特集として放送され、ジャーナリストとしての資質も早期に示しました。

2006年からはタイのバンコクを活動の拠点とし、テレビ番組の取材を継続する傍ら、タイとビルマ（ミャンマー）の国境付近に暮らす日本の未帰還兵に関する長期取材を開始します。この粘り強い取材が、後に彼の代表作となるドキュメンタリー映画へと結実しました。

2009年、長い時間をかけて向き合った未帰還兵たちの現実を描いた記録映画『花と兵隊』が完成し、各地の劇場で公開されました。この作品は大きな反響を呼び、松林監督のドキュメンタリー作家としての地位を確立しました。

その後も、社会の重要な出来事や見過ごされがちな人々に焦点を当てた作品制作を続け、2015年には文化庁新進芸術家海外研修制度の支援を受けてブラジルのサンパウロに留学しています。

主要作品

松林監督は、自身で監督、撮影、編集の多くを手掛けるスタイルで、リアリティを追求した作品を発表しています。

『拝啓人間様』(2004): 日本映画学校の卒業制作として監督・編集を務めた初期作品です。
『花と兵隊』(2009): タイ・ビルマ国境に生きる日本の元未帰還兵たちの生活と心情を追いかけた記録映画です。監督、撮影、編集を兼任しました。
『311』(2011): 東日本大震災発生直後の様子を記録したオムニバス作品で、森達也、綿井健陽、安岡卓治といった他の著名なドキュメンタリストたちと共同で監督を務めました。
『相馬看花 第一部 奪われた土地の記憶』(2011): 福島県相馬市を舞台に、東日本大震災とそれに伴う原発事故によって故郷や伝統的な文化、生活基盤を奪われた人々の姿を描いた作品です。監督、撮影、編集を手掛けました。
『祭の馬』(2013): 『相馬看花』に続く形で、相馬野馬追という伝統的な祭りと、それを支える人々の復興への歩みを記録した作品です。こちらも監督、撮影、編集を兼任しました。

その他にも、藤原敏史監督作品『フェンス』（2008年）では演出部や現場録音として制作に参加しています。

受賞歴

松林監督の作品は国内外で高い評価を受け、数多くの賞を受賞しています。

『花と兵隊』

第1回 田原総一朗ノンフィクション賞 映像部門 奨励賞 (2009年)
第33回 山路ふみ子映画賞 山路ふみ子福祉賞 (2009年)

『相馬看花 第一部 奪われた土地の記憶』

第33回 ジャン ルーシュ国際映画祭 Anthropology and sustainable development prize (フランス、2012年)
第12回 ニッポンコネクション 審査員特別賞 (ドイツ・フランクフルト、2012年)

『祭の馬』

第10回 ドバイ国際映画祭 アジア・アフリカ・ドキュメンタリー部門 最優秀作品賞 (2013年)

著書

映像作品と並行して、自身の取材経験や作品制作の背景について執筆活動も行っています。

『ぼくと「未帰還兵」との2年8ヶ月 「花と兵隊」制作ノート』（同時代社、2009年）
『311を撮る』（共著、岩波書店、2012年）
* 『馬喰』（河出書房新社、2013年）

これらの著書は、作品だけでは伝えきれない、取材対象との関係性や制作過程における葛藤などが率直に綴られており、松林氏の人間的な側面を知る上でも貴重な資料となっています。

松林要樹は、社会の出来事や人々の営みに真摯に向き合い、その現実を力強く、かつ繊細に描き出すドキュメンタリストとして、今後の活躍が期待される存在です。彼の作品は、見る者に対し、現代社会が抱える課題や、人間の尊厳について深く考えさせる機会を与えてくれます。

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