松浦理英子

松浦理英子：性差とタブーと向き合う作家

松浦理英子氏は1958年、愛媛県松山市に生まれた小説家です。幼少期は父親の転勤に伴い、四国各地を転々としました。香川県丸亀市で中学・高校時代を過ごし、その後、青山学院大学文学部仏文科に進学。10代の頃からマルキ・ド・サドやジャン・ジュネといった作家に傾倒し、フランス文学を専攻する道を選びました。

大学在学中の1978年、デビュー作「葬儀の日」で文學界新人賞を受賞、芥川賞候補にもノミネートされます。この作品は、独特な視点で人間の生死や人間関係を描いたものでした。その後も精力的に作品を発表し、1987年にはレズビアンを描いた『ナチュラル・ウーマン』で大きな注目を集めます。中上健次氏からも絶賛されたこの作品は、松浦氏の作家としての地位を確固たるものにしました。

1993年、松浦氏の代表作である『親指Pの修業時代』が刊行されました。この作品は、右足の親指がペニスになってしまった女性の姿を通して、性愛やジェンダー、身体観といったテーマを鋭くえぐり出しています。この小説はベストセラーとなり、映画化の話も持ち上がりました。また、英語とイタリア語への翻訳も出版され、海外でも高い評価を得ています。

松浦氏の作品には、一貫して性愛における「性器結合中心主義」への批判的な視点が貫かれています。性差やジェンダー、セクシュアリティといったテーマをタブー視することなく、独自の切り口で表現することで知られています。一般的な意味でのフェミニストではないと自称する松浦氏ですが、性的なジェンダー規範に異議を唱える姿勢は、彼女の作品世界を特徴づける重要な要素となっています。

『親指Pの修業時代』以降の作品も、その独特な世界観と高い文学性を評価され、多くの賞を受賞しています。2007年には、『犬身』で読売文学賞を受賞。この作品では、子犬に転生した女性を通して、種を超えた愛情や絆を描いています。また、2017年には『最愛の子ども』で泉鏡花文学賞を受賞するなど、現在も第一線で活躍を続けています。

松浦氏は寡作な作家として知られており、作品発表の間隔は比較的長いですが、一つ一つの作品が丁寧に練り上げられ、高い完成度を誇っています。その独特の感性と鋭い洞察力、そして、性愛やジェンダーといった複雑なテーマに真正面から向き合う姿勢が、多くの読者を魅了し続けています。

私生活では犬好きとしても知られ、女子プロレスも愛好しているそうです。特にブル中野氏のファンであることは有名です。これらの興味関心も、彼女の作品世界に影響を与えている可能性があります。

主な受賞歴

1978年：文學界新人賞（「葬儀の日」）
1994年：女流文学賞（「親指Pの修業時代」）
2007年：読売文学賞（「犬身」）
2017年：泉鏡花文学賞（「最愛の子ども」）
2022年：野間文芸賞（「ヒカリ文集」）

主な作品

小説
『葬儀の日』
『セバスチャン』
『ナチュラル・ウーマン』
『親指Pの修業時代』
『裏ヴァージョン』
『犬身』
『奇貨』
『最愛の子ども』
『ヒカリ文集』

エッセイ
『ポケット・フェティッシュ』
『おカルトお毒味定食』（笙野頼子との共著）
『優しい去勢のために』
『おぼれる人生相談』

脚本
* 『ナチュラル・ウーマン』

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