最愛の子ども

『最愛の子ども』は、松浦理英子が『文學界』2017年2月号に発表し、2017年4月に文藝春秋から刊行された小説です。ミルキィ・イソベによる装丁も印象的な本作は、第45回泉鏡花文学賞を受賞しています。

松浦理英子は、本作について「男性や大人たちから好かれない、愛されない少女たちの物語」であり、「少女であることが無力でつらいことだと、孤独なことだと思っている若い女性に読んで欲しい」と語っています。また、女子高校生たちが主体的に物語を紡ぎ出す形式を追求したとも述べています。

物語の舞台は、神奈川県にある私立玉藻学園。男女が別クラスの高等部2年4組には、日夏、真汐、空穂という仲の良い3人組がいます。日夏は真汐に優しく、真汐は日夏を信頼している様子から、クラスメイトたちは日夏を〈パパ〉、真汐を〈ママ〉と呼び、空穂は2人に懐いていることから〈王子様〉と呼ばれていました。そして、クラスメイトたちはこの3人組を〈わたしたちのファミリー〉と呼び、アイドルを愛でるように観賞します。

主な登場人物

舞原日夏: 玉藻学園高等部2年4組の生徒。〈パパ〉と呼ばれる。
今里真汐: 玉藻学園高等部2年4組の生徒。〈ママ〉と呼ばれる。
* 薬井空穂: 玉藻学園高等部2年4組の生徒。〈王子様〉と呼ばれる。

書評

山田詠美は、本作を「松浦さんだけがつくり得るドールハウス」と評し、現実と幻想が交錯する世界観を評価しています。佐々木敦は、「真に途方もない才能の持ち主であることをまざまざと見せつける鮮烈な傑作」と絶賛。岡崎武志は、ジェンダー論や神話性に頼らず、女性の「性愛」を表現し尽くしている点を評価しています。千石英世は、女子高生たちの「源氏名による性愛の共和国」という幻影を繊細かつユーモラスに描いていると評しました。青山七恵は、松浦作品に触れるたびに「関係性の地図が吹っ飛ばされるような目眩と歓喜」を覚えると述べています。

『最愛の子ども』は、少女たちの関係性を鮮烈に描き出し、読者に深い印象を与える作品です。泉鏡花文学賞受賞も納得の、松浦理英子の才能が光る一作と言えるでしょう。

もう一度検索