松花堂弁当

松花堂弁当は、十字形の仕切りと縁の高いかぶせ蓋を持つ弁当箱を用いた料理です。この仕切りによって、刺身、焼き物、煮物、ご飯などが美しく盛り付けられ、それぞれの料理の味や香りが混ざり合うのを防ぐ役割も果たします。盛り付けの様式としては、ご飯と数種類のおかずを組み合わせる点で幕の内[[弁当]]に似ていますが、その特徴的な仕切りが、松花堂弁当を独特の存在にしています。

「松花堂」の名前は、江戸時代初期に石清水八幡宮の社僧であった松花堂昭乗に由来します。彼は、農家が種入れに使っていた器に着想を得て、この形の器を絵具箱や煙草盆として用いていました。しかし、この器が弁当として利用されるようになるまでには、数百年を要することになります。

松花堂弁当が誕生したのは、昭和初期の1933年頃とされています。大阪の桜宮にあった貴志彌右衛門の邸宅内の茶室「松花堂」で茶事が催された際、彌右衛門が当時まだ若き料理人であった湯木貞一に、この器を用いた茶懐石の弁当を作るように命じたのが始まりです。湯木は後に日本を代表する料亭「吉兆」を創業する人物です。この出来事が、毎日新聞に「吉兆前菜」として取り上げられ、松花堂弁当の名が広く知られるきっかけとなりました。

十字形の仕切りは、見た目の美しさだけでなく、料理の味や香りが混ざるのを防ぐという実用的な利点もあります。湯木は、他家から松花堂弁当の依頼を受けると、必ず貴志家への挨拶を欠かさなかったというエピソードからも、この弁当に対する彼の敬意が伺えます。

松花堂昭乗が、この十字の仕切りのある箱に料理を盛り付け、客をもてなしたという説も存在しますが、これは後世の創作や誤解に基づくものと考えられています。松花堂弁当は、その美しい盛り付けと歴史的背景から、日本を代表する弁当の一つとして広く愛されています。

関連情報として、松花堂弁当に名前の由来となった「松花堂」、湯木貞一が設立した「湯木美術館」があります。また、IBMのノートパソコン「ThinkPad」は、デザインコンセプトのモチーフに松花堂弁当が用いられています。これは、松花堂弁当の持つ機能美が、製品デザインにも影響を与えた一例と言えるでしょう。

松花堂弁当は、単なる食事ではなく、その歴史や文化、そして美意識が詰まった、日本の食文化を象徴する存在と言えるでしょう。

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