板引

板引（いたびき）は、平安時代に日本で考案された独自の布地加工技術です。主に、布に光沢と張りを出すために用いられました。その特徴は、砧打ち（きぬたうち）という布を叩いて柔らかくする工程を省くために、蝋などの植物性の混合物を生地に塗布することにあります。

板引の技法

板引の工程は、以下の通りです。

1. 板の準備: まず、漆塗りの一丈（約3メートル）近い大きな板を用意します。この板に、生地が張り付くのを防ぎ、滑らかな仕上がりとするために、胡桃油を塗ります。
2. 木蝋の塗布: 次に、生地に滑らかさと耐久性を与える目的で、木蝋を塗ります。木蝋は、植物性の天然ワックスであり、独特の光沢を生地に与えます。
3. 糊付け: 姫糊（ひめのり）と呼ばれる、米を原料とした糊で生地に張りを持たせます。この糊を均一に生地に塗り広げます。
4. 板への貼り付け: 糊付けした生地を、準備した板に丁寧に貼り付けます。この際、生地に皺が寄らないように注意深く作業を進めます。
5. 乾燥: 貼り付けた生地を、自然乾燥させます。乾燥させることで、糊が固まり、生地に張りが出ます。

板引に用いられる材料は、全て天然由来の植物性のものです。化学物質を使用しないため、環境にも優しく、生地本来の風合いを生かすことができます。

歴史と現状

板引の技術は、大正御大礼（たいしょうごたいれい）の後、一時的に途絶えてしまいました。しかし、現代になり、一部の装束業者たちの熱心な努力によって、その技法が復活しました。現在では、細々と皇室の調度品などに用いられています。

関連事項

板引は、日本の伝統的な衣装である打衣（うちぎぬ）や袿（うちき）といった衣服の製作にも関連しています。これらの衣装に板引の技術を用いることで、独特の風合いと品格を与えることができます。

板引は、日本の伝統文化を支える貴重な技術の一つです。その技術を継承し、後世に伝えていくことが重要です。

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