林博史

林博史（はやし ひろふみ）

1955年生まれの日本の歴史学者であり、関東学院大学経済学部教授として教鞭を執る傍ら、日本の戦争責任資料センター研究事務局長も務める。専門は日本近現代史であり、特にBC級戦犯裁判、慰安婦問題、沖縄戦など、日本の戦争責任に関わる諸問題について精力的な研究活動を展開している。

経歴

兵庫県神戸市で生まれ、1979年に東京大学文学部を卒業後、一橋大学大学院社会学研究科修士課程、博士課程を経て、1985年に社会学博士号を取得した。大学院では、歴史学者の藤原彰に師事。1985年に関東学院大学経済学部に専任講師として着任し、助教授を経て1999年より教授となる。2002年には、著書『沖縄戦と民衆』で伊波普猷賞を受賞している。

研究活動

林博史の研究は、特定の視点に偏ることなく、多角的なアプローチを特徴とする。その研究対象は、日本の戦争責任に関わる歴史的事実を検証し、現代社会における歴史認識の重要性を問いかけるものが多い。

「マラヤ虐殺」改竄問題の告発: 1991年、中国新聞の連載記事において、自らが関わった証言集の内容が歪曲・捏造されたとして抗議を行った。この問題提起は、歴史的事実を正確に伝えることの重要性を社会に再認識させた。
「集団自決」記述検定問題: 2006年の歴史教科書検定において、沖縄戦における「集団自決」に関する記述が日本軍の強制ではないという方向に修正された際、その根拠として自身の著書が挙げられた。これに対し、林は「軍命令」の有無と「軍による強制や誘導」は異なる次元の問題であると批判し、日本軍の責任を曖昧にしようとする動きに警鐘を鳴らした。
慰安婦問題: 東京裁判の尋問調書を根拠として、日本軍が組織的に慰安婦を強制連行した事実を主張。また、イギリス公文書館で発見された資料から、日本軍が敗戦直後に慰安婦を補助看護婦として雇用していた事実を明らかにした。これらの研究は、慰安婦問題の本質をより深く理解するための重要な足がかりとなっている。

批判と反論

林博史の研究活動は、時に批判や反論を招くこともある。特に、歴史認識を巡る問題においては、意見の対立が表面化することも少なくない。

藤岡信勝からの批判: 藤岡は、林の主張が「日本軍を悪逆非道に描き出す」という特定の目的によるものであり、当時の時代潮流の責任を日本軍にだけ押しつけようとするものだと批判している。
慰安婦問題に関する批判: 林が提示した東京裁判資料が、すでに批判されていた「伝聞」に過ぎないとの指摘もある。

著書

林博史は、多数の著書を執筆しており、その研究成果は広く社会に共有されている。

主な著書としては、以下のようなものがある。

『近代日本国家の労働者統合――内務省社会局労働政策の研究』
『華僑虐殺――日本軍支配下のマレー半島』
『裁かれた戦争犯罪――イギリスの対日戦犯裁判』
『沖縄戦と民衆』
『BC級戦犯裁判』
『シンガポール華僑粛清――日本軍はシンガポールで何をしたのか』
『沖縄戦――強制された「集団自決」』
『戦犯裁判の研究――戦犯裁判政策の形成から東京裁判・BC級裁判まで』
『沖縄戦が問うもの』
『米軍基地の歴史――世界ネットワークの形成と展開』
『沖縄からの本土爆撃――米軍出撃基地の誕生』
* 『帝国主義国の軍隊と性-売春規制と軍用性的施設』

まとめ

林博史は、日本の近現代史、特に戦争責任に関わる分野において、重要な研究成果を上げている歴史学者である。その研究は、歴史的事実を検証し、過去の過ちから学び、未来の平和を築くための重要な基盤となる。歴史修正主義的な動きが活発化する現代社会において、彼の研究はますますその重要性を増していると言えるだろう。

林の研究は、過去の歴史を単に記録するだけでなく、現代社会における歴史認識のあり方を問いかけるものである。

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