藤原彰

藤原彰：近代日本を問い続けた歴史学者

藤原彰（1922-2003）は、20世紀日本の歴史を深く理解する上で欠かせない、重要な歴史学者です。陸軍士官学校卒業後、中国大陸で従軍した経験を持つ彼は、戦後、東京帝国大学文学部史学科に進学。日本中世史から出発した研究は、兄の影響や軍人としての経験を踏まえ、近代日本政治史・軍事史へとシフトしていきました。

軍人としての経験から歴史学者へ

東京生まれの藤原は、東京府立第六中学校を経て、1941年に陸軍士官学校を卒業。華北への派遣、大陸打通作戦への参加など、中国大陸で戦争を経験しました。1945年3月には内地へ転勤、本土決戦に備える第216師団に所属し終戦を迎えました。この戦争体験は、彼の人生と研究に深い影響を与えたことは間違いありません。戦後の1946年、東京帝国大学文学部史学科に入学し、歴史学の道を歩み始めます。

昭和史研究の中核を担う

千葉大学非常勤講師などを経て、1967年、一橋大学社会学部助教授に就任。1969年には教授、同社会学部長を歴任しました。一橋大学退官後は、立教大学、女子栄養大学などで教鞭をとり、後進の育成にも尽力しました。

藤原彰の研究活動は、主に日本近代史、特に政治史と軍事史に焦点を当てています。遠山茂樹、今井清一との共著『昭和史』（岩波新書、1955年）は、大きな反響を呼びました。この著作は、亀井勝一郎らによる批判を招き、「昭和史論争」と呼ばれる大論争へと発展します。この論争は、戦後日本の歴史認識を巡る様々な問題点を浮き彫りにする契機となりました。1959年には、この批判を踏まえた改訂版を刊行しました。

南京事件研究における貢献

南京事件についても、藤原彰は精力的に研究を行いました。20万人を超える犠牲者が出たとする見解を支持し、その事実を歴史学的に解明しようと努めました。笠原十九司は、藤原の研究が、軍隊・戦闘・戦場の体験に基づき、歴史学的方法論を用いて南京事件を日本の軍隊史・戦争史の中に位置づけ、分析した点を高く評価しています。日本の軍隊の特質や、それを助長した背景にある国民の中国蔑視、差別観にも言及している点が、特筆されます。

積極的な著作活動と論争

藤原彰は、数多くの著作を発表しました。単著には『軍事史』『日本帝国主義』『日本近代史Ⅲ』『天皇制と軍隊』などがあり、共著には『昭和史』の他に、『天皇の昭和史』、『日本現代史――1945→1985』などがあります。これらの著作は、彼の歴史観や、当時の社会状況を反映したものです。

しかし、彼の主張は常に議論の的となりました。昭和天皇の戦争責任問題においても強硬な立場を取り、朝鮮戦争の発端を韓国軍の先制攻撃とする見解なども、批判の対象となっています。特に、朝日新聞に掲載された旧日本軍による毒ガス戦に関する写真報道とその後の論争は、当時のメディアのあり方にも疑問を呈する出来事となりました。

多くの昭和史研究者を育成

藤原彰の門下からは、粟屋憲太郎、芳井研一、須崎慎一、塩田咲子ら、多くの昭和史研究者が輩出しました。彼らが日本の近現代史研究に貢献していることは、藤原彰の教育者としての力量を示しています。

歴史家の役割

藤原彰の生涯と業績は、歴史研究における様々な問題点と、歴史家の役割を私たちに考えさせるものです。彼の研究は、時として激しい論争を巻き起こしましたが、それ自体が、日本の近現代史を深く理解するための重要な契機となったと言えるでしょう。彼の研究姿勢、そして遺した膨大な著作は、これからも日本の歴史研究に大きな影響を与え続けるはずです。

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