染付

染付：青の芸術が彩る陶磁器の世界

染付とは、白い素地に酸化コバルトを主成分とする絵具で模様を描き、透明釉薬をかけて高温で焼き上げた陶磁器のことです。藍色の美しい発色が特徴で、磁器に多く用いられる技法です。中国では「青花瓷（せいかし）」や「釉裏青（ゆうりせい）」と呼ばれ、古くから愛されてきました。

技法と材料：呉須と、東西の技術交流

染付は、釉薬の下に絵の具がある「釉下彩」技法の一種です。同じ酸化コバルトを用いても、低温で焼く唐三彩の藍彩とは区別されます。日本では、絵具を「呉須（ごす）」と呼び、江戸時代には「茶碗薬」という呼び名も用いられました。

呉須の材料は、歴史を通して様々な地域から輸入されました。元末明初には、西南アジアから輸入された「蘇麻離青」や「蘇勃泥青」と呼ばれる濃い藍色のガラス質顔料が用いられ、その後も「回青」と呼ばれる外国産の材料が重要な役割を果たしました。一方、中国国内でも「土青」や「石青」といった国産の呉須も使用されるようになりました。近代以降は、ドイツ産などの人造コバルトも広く用いられるようになっています。

日本の染付では、磁土を一度素焼きしてから呉須で絵付けし、透明釉薬をかけて本焼きする工程が一般的です。一方、中国では、素焼きをしない素地に直接呉須で絵付けし、透明釉薬をかけて焼成する「生掛け」という技法が主流でした。ただし、極端に薄い磁器では素焼きが行われる場合もあり、初期伊万里などでは生掛けの技法も見られます。

歴史と世界への広がり：東西文化交流の証

染付の起源は古く、9世紀頃のインドネシアの沈没船や河南省の窯跡から出土した染付陶片が、その存在を示しています。元時代には中国の景徳鎮窯で盛んに生産され、15世紀には朝鮮半島、ベトナムなど東アジア各地に広まりました。

17世紀には、日本でも伊万里焼として染付が制作され始め、独自の風格を確立しました。ヨーロッパにおいても、オランダのデルフト焼（多くの作品が釉下彩技法による軟質陶器）や、デンマークのロイヤルコペンハーゲン（磁器）など、世界各地で染付は発展し、それぞれの地域に根付いた独自の様式を生み出しました。

染付の魅力：普遍的な美と多様な表現

染付は、そのシンプルな技法でありながら、奥深い青色の発色と、多様なデザインによって、人々を魅了し続けてきました。繊細な文様から力強い絵画まで、表現の幅は広く、時代や地域によって異なる美意識を反映した作品が数多く存在します。

今日でも、世界各地で染付は制作され、伝統を守りながら新たな表現に挑戦し続けています。その歴史と技術、そして普遍的な美しさは、これからも多くの人々を惹きつけ続けるでしょう。

参考文献

佐賀県立九州陶磁文化館監修『古伊万里入門』、青幻舎、2007年
「世界美術小辞典-31-東洋陶磁・ガラス-2-,日本編・染織-1-」。新潮社、『芸術新潮』1972年6月号
佐藤雅彦『中国やきもの案内』、平凡社、1979年
内藤 匡『新訂 古陶磁の科学』、二玄社、1986年
* 前田正明『西洋陶磁物語』、講談社、1980年

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