柳井縞

山口県柳井市を中心に、古くから伝わる日本の伝統織物、それが柳井縞（やないじま）です。この織物は、柔らかな木綿糸を使い、特徴的な縦縞の文様を表現しています。

柳井縞の発展は、江戸時代に大きく花開きました。当時の柳井地域では、「綿替（わたがえ）」と呼ばれる独自の商業形態が発達しました。これは、木綿を取り扱う商人が織り手へ原料の木綿糸を提供し、その代わりに織り賃を支払い、完成した反物を買い取るという仕組みです。この流通システムが、柳井縞の生産を活発化させました。

さらに、1760年（宝暦10年）には、当時の支配者であった岩国藩が織物に対して検印制度を導入しました。これにより柳井縞の品質が公的に保証される形となり、その評価は一層高まります。江戸時代の中頃には、「柳井木綿」の名で広く日本全国にその品質と特色が知れ渡り、地域の主要な産物として栄えました。

しかし、明治時代の後半になると、国内の産業構造の変化とともに、伝統的な織物業全体が衰退傾向をたどります。柳井縞もその影響を受け、大正時代の初め頃には、かつてのように容易に入手することが難しい希少なものとなってしまいました。

一度は途絶えかけた伝統ですが、近年になって再び柳井縞を現代に蘇らせようという機運が高まっています。これは「新生柳井縞（しんせい やないじま）」と呼ばれ、地域の有志によって復興の取り組みが進められています。この活動を推進するため、「柳井縞の会」という組織も発足し、技術の継承や普及活動を行っています。

また、柳井市の名物として知られる伝統工芸品に「金魚ちょうちん」がありますが、その愛らしい姿を彩る鮮やかな赤色には、かつて柳井縞の染色に用いられていた染料の技術が活かされていると言われています。地域の二つの伝統が、色の面で繋がっているのは興味深い点です。

柳井市が市制施行50周年を迎えた2004年（平成16年）には、記念イベント「スローライフ月間in柳井」が開催されました。この中で、「柳井縞の会」はユニークな企画を実施しました。それは、一般市民から柳井縞の新しいデザインや名称を公募し、そこから選ばれた20種類の柳井縞を展示する「全国縞めぐり」展です。この取り組みは、伝統の新しい可能性を示すとともに、多くの人々の関心を集め、柳井縞の復興を後押しするものとなりました。このように、柳井縞は単なる過去の遺産ではなく、現代に息づき、未来へと受け継がれようとしています。

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