柳営婦女伝系

『柳営婦女伝系』（りゅうえいふじょでんけい）は、18世紀に成立した書物で、徳川将軍家の将軍の正室、側室、乳母など、将軍家に関わった女性たちの逸話や系図を収めています。特に、将軍の側室に関する情報源として知られていますが、その信憑性については疑問視されることが多く、利用には注意が必要です。

この書物は、17世紀以降に編纂された「大名評判記」と呼ばれる一連の書物群の流れを汲むものです。「大名評判記」は、大名の略歴や評判、系譜などを記録したもので、『武家諫忍記』を始めとして、約1世紀にわたって様々な書物が書き継がれてきました。

『武家諫懲記後正』には、将軍家の正室や側室、乳母の事績や系譜を記した「附録」が含まれており、この部分が「将軍外戚評判記」として発展していきました。『柳営婦女伝系』もこの流れに位置づけられ、『将軍御外戚伝』や『玉輿記』といった書物と影響関係にあります。

「大名評判記」の多くは大名家の蔵書として伝えられましたが、「将軍外戚評判記」は大名家だけでなく幕臣の蔵書にも見られ、広く流布しました。中でも『柳営婦女伝系』は、同系統の書物の中でも最も多く写本が残されています。近代に入り、『柳営婦女伝系』は『玉輿記』と共に、1917年に『柳営婦女伝叢』（国書刊行会）に収録され、刊本としても普及しました。

書物には興味深い逸話が数多く収録されていますが、後世の編纂物であるため、史料としての信憑性は高いとは言えません。研究者たちは利用する際、「良質な史料とは言えない」と断ったり、「本当の話かはわからない」と注意を促したりするなど、慎重な姿勢を取っています。研究者の望月良親は、『柳営婦女伝系』の史料としての危うさが認識されていながらも、本格的な史料批判は行われてこなかったと指摘しています。

参考文献

『柳営婦女伝叢』国書刊行会、1917年。
望月良親「読まれる女性たち : 「将軍外戚評判記」と「大名評判記」」『書物・出版と社会変容』第8巻、「書物・出版と社会変容」研究会、2010年。

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