柳川堀割物語

『柳川堀割物語』：水都の再生と人々の祈り

1987年、スタジオジブリの宮崎駿が製作、高畑勲が監督を務めたドキュメンタリー映画『柳川堀割物語』。本作は、福岡県柳川市の水路網「堀割」を舞台に、その歴史、人々の生活との関わり、そして近代化による荒廃と再生への取り組みを丁寧に描き出しています。

アニメーションの巨匠が描く、水都の息吹

高畑勲監督は、当初アニメーション作品の舞台として柳川を視察しました。しかし、そこで出会った水路再生の中心人物、柳川市職員の広松伝氏の話に感銘を受け、柳川そのものを主題としたドキュメンタリー映画制作を決意します。広松氏は、映画製作にも深く関わっており、その熱意と深い知識が作品にリアリティを与えています。

映画製作のきっかけは、宮崎駿監督が『風の谷のナウシカ』の成功を祝し、高畑監督への謝礼として資金を提供したことに遡ります。当初1年と予定されていた製作期間は、高畑監督のこだわりから3年に延長。宮崎監督は、高畑監督が予算を使い果たしたため、自身の自宅を抵当に入れる事態にまで追い込まれました。このエピソードからも、二人の深い信頼関係と、作品にかける情熱が伺えます。

水都の物語：歴史、人、そして再生への希望

映画は、「プロローグ」から始まり、「堀割のなりたち」「水利システムの完成」「水路の荒廃」「水路再生に向って」といった章立てで構成されています。それぞれの章では、柳川の堀割の歴史、人々の生活における堀割の役割、近代化による環境の変化、そして再生への努力といった様々な側面が克明に描かれています。

柳川独特の水路網は、人々の生活と密接に結びついており、水運、農業用水、生活用水など、多様な役割を果たしてきました。しかし、近代化の波は、堀割の環境を悪化させます。映画では、その過程が詳細に語られ、当時の状況がリアルに伝わってきます。

しかし、映画は悲観的なものではありません。柳川の人々は、失われた環境を取り戻そうと、様々な努力を続けています。映画は、その活動の様子を丁寧に追いかけ、人々の熱意と希望を描いています。

映画を超えた記録、そして未来へのメッセージ

『柳川堀割物語』は、単なるドキュメンタリー映画ではありません。それは、柳川の人々の歴史と再生への願いを記録した、貴重な映像資料です。美しい映像、高畑勲監督の繊細な演出、そして柳川の人々の熱意が織りなす物語は、観る者の心を深く揺さぶります。

さらに、アニメーションパートも含まれ、現実と想像の世界が交錯する独特の映像表現も魅力の一つです。山本二三氏による美術、田中敦子氏や二木真希子氏による原画など、ジブリ作品に携わった多くのスタッフが参加しており、そのクオリティの高さは高く評価されています。

『柳川堀割物語』は、過去と現在、そして未来をつなぐ、重要なメッセージを私たちに伝えてくれる作品です。水と人との共存、環境保全の重要性、そして人々の努力の尊さを改めて考えさせられる、忘れ難い映画体験となるでしょう。

スタッフ

製作：宮崎駿
監督・脚本：高畑勲
撮影：高橋愼二
監督補：宮野隆博
監修・脚本協力：広松伝
ナレーション：加賀美幸子、国井雅比古
主題歌：間宮芳生「柳川堀割物語」

受賞歴

1987年 第42回毎日映画コンクール教育文化映画賞
* 1987年 第41回日本映画テレビ技術協会映画技術特別賞

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