柳川秀勝

柳川 秀勝

柳川 秀勝（やながわ ひでかつ、1833年9月23日 - 1908年2月6日）は、江戸時代末期から明治時代にかけて日本の開拓を主導した人物です。

生い立ちと開拓への志

1833年（天保4年）、常陸国鹿島郡志崎村（現在の茨城県鹿嶋市）に生まれた秀勝は、地元の有力な豪農である出津（いでづ）家の当主、秀一（ひでかず）の末子でした。出津家は古くは京都の禁裏衛門府を務めた柳川氏を祖とする家系ですが、常陸国に帰農してからは出津姓を名乗っていました。秀勝が生まれた頃、父・秀一は、鹿島灘沿岸に広がる荒涼とした砂丘地帯、通称「日川（にっかわ）砂漠」の開墾を構想していました。この土地は不毛であるとして長らく放置されていましたが、秀一はこれを豊かな田畑に変えようと決意し、調査を重ねました。そして1844年（天保15年）2月、幕府の代官にこの土地の払い下げを願い出ました。同年11月には、およそ150町歩と見積もられた土地のうち90町歩が秀一に払い下げられ、その代価として7両2分が納められました。

父子による挑戦

翌1845年（弘化2年）8月、父・秀一は家督を長男・雅慶に譲り、自らの名を柳川宗左衛門と改めました。秀勝も父に同行し、二人で日川砂漠に移住して開墾事業を開始しました。彼らは地元志崎村や周辺地域、さらには隣国下総から集まった百数十名の農家次男・三男らを率いることになりました。事業は困難を極め、溝を掘り、田畑を整備する一方で、海岸には防風のための黒松を植えるなど、地道な作業が続けられました。しかし、1846年（弘化3年）には記録的な大雨による水害に見舞われ、翌年には深刻な干ばつが発生するなど、自然災害が相次ぎ、事業の継続が危ぶまれる事態に何度も直面しました。

困難の克服と事業の完成

相次ぐ苦難と移住者の離散に悩まされた秀勝は、父が脳溢血で療養のため志崎村に戻った後も事業を諦めませんでした。1861年（文久元年）4月には、伊豆韮山の代官として知られる江川太郎左衛門に教えを乞い、開墾技術に関する指導を受けました。また、開墾経験豊かな八丈島の農民35名を招聘する手配も進められ、これは秀勝にとって大きな力となりました。新たな決意を胸に、秀勝は事業完遂を誓い、これ以降、毎月輪番で鹿島神宮へ参拝することを習慣としました。こうした努力が実を結び、開拓事業は着実に進展しました。そして1866年（慶応2年）、ついに開墾事業は完了します。代官による検地の後、同年10月17日には新しい村の創立が認められ、その地は父子の姓から取って「柳川新田（やながわしんでん）」と名付けられました。

新田経営と晩年

父の死去に伴い、秀勝は第二代柳川宗左衛門を襲名しました。彼は、長年苦労を共にしてきた移住者たちへの報恩として、開墾した土地のうち田畑と宅地合わせておよそ29町歩を彼らに分け与えました。残りの95町歩余りは柳川家の所有としましたが、柳川家と村民の間には強い絆が生まれました。特に、魚群が浜に近づいた際には、村全体が一丸となって地曳網漁を行うなど、共同体としての結束は非常に固いものでした。

秀勝の開拓における功績は広く認められ、1889年（明治22年）には藍綬褒章を受章しています。晩年の1907年（明治40年）11月、茨城県で行われた陸軍特別大演習に際して、結城郡結城町（現在の結城市）に滞在していた明治天皇は、秀勝を御前に召し出されました。秀勝は開墾事業の詳細について天皇に説明する機会を与えられ、その功績を改めて称えられました。翌年、1908年（明治41年）2月6日、柳川秀勝はその生涯を終えました。

家族・親族

父：秀一（1802-1862）。出津家十三代目当主。家督を長男に譲った後、柳川宗左衛門と改名し開拓に着手。
妻：やす（1835年生）。安重治郎右衛門の二女。
長男：秀樹（1857年生）。第三代柳川宗左衛門を継承。子に第四代宗左衛門となる謙一。
長女：かつ。若松村で回漕業を営む柳川惣助に嫁ぐ。
二男：安重房次郎（1859年生）。母の実家である安重家の養子となる。鹿島浦の地曳網漁網元を務めた。
三男：野村三四郎（1865年生）。東京の野村家に養子入り。大蔵省を辞した後、田中鉱山の役員。
四男：柳川金之助（1869年生）。
五男：柳川敬四郎（1874年生）。
* 二女：みつ。従兄弟の松倉新蔵に嫁ぐ。

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