柳澤武

柳澤 武（やなぎさわ たけし）

柳澤武（やなぎさわ たけし）は、1975年に福岡県で生まれた日本の法学者です。現在、名城大学法学部の教授を務めており、労働法を専門分野としています。九州大学より博士（法学）の学位を取得しています。

経歴

九州大学法学部に学び、在学中は労働法学者の野田進氏に師事しました。1998年3月に同学部を卒業後、同大学大学院法学研究科修士課程に進学し、2000年3月にこれを修了しました。大学院修了後は、日本学術振興会の特別研究員として研究に従事しました。2003年4月からは九州大学大学院法学研究院の助手として、教育および研究活動に携わりました。2004年3月には、自身の学位論文「雇用における年齢差別の法理」によって、九州大学から博士（法学）の学位を授与されました。

学位取得と同年の2004年4月、名城大学法学部に専任講師として着任しました。その後、2007年4月に准教授に昇任し、2014年4月からは現職である教授として、研究・教育活動を続けています。

研究内容と業績

柳澤氏の研究は、主に雇用における差別問題、中でも年齢差別に関する法理の探求に集中的に取り組んでいます。このテーマは、氏の学術キャリアを通じて一貫しており、博士論文の主題ともなり、後に単著として刊行されています。研究アプローチの特徴として、アメリカ法をはじめとする諸外国の法制度や判例を詳細に分析する比較法研究を多用している点が挙げられます。これは、雇用差別問題が国際的な広がりを持つ課題であることや、海外で先行する議論や法制度を参照することの重要性を示しています。

研究成果は多くの著書や論文として発表されています。単著としては、2006年に成文堂から出版された『雇用における年齢差別の法理』が代表的な著作であり、2008年にはこの著書が平成19年度の冲永賞（図書）を受賞し、その学術的価値が高く評価されました。また、複数の共著にも参加しており、労働法の基本的な概念を解説する『現代労働法』（中央経済社）や、雇用における平等原則を集中的に論じた『労働法エッセンシャル』（有斐閣）では、「雇用と平等」に関する章を担当しています。さらに、実務的な側面を扱った『解雇と退職の法務』（商事法務）の執筆にも加わっています。

論文では、雇用における年齢差別禁止法理の歴史的な変遷や、アメリカ法の「インパクト法理」の適用可能性について考察したもの、賃金コストを理由とした解雇や採用拒否が年齢差別にあたるかをアメリカの判例法理を手がかりに検討したもの、人事採用で問題となる「資格過剰（overqualified）」が年齢差別となるか否かをアイルランドとアメリカの事例を比較しながら論じたものなどがあります。これらの研究は、雇用における年齢差別という複雑な問題を、比較法的視点から深く掘り下げています。

加えて、国内の法改正、特に高年齢者雇用安定法や雇用対策法の改正に伴う新たな法制度、例えば新しい継続雇用制度の法的課題や、雇用対策法における年齢制限禁止規定の意義と効果についても精力的に論じています。最低賃金制度の「安全網」としての機能や、整理解雇における人選基準の法的考察、さらには遺伝子情報による雇用差別といった先進的なテーマにも取り組んでおり、研究対象は多岐にわたります。これらの論文は、季刊労働法、ジュリスト、日本労働研究雑誌、労働法律旬報といった労働法分野の主要な専門誌や学術誌に多数掲載されています。

学会活動においては、日本労働法学会の大会シンポジウムで、最低賃金法の再検討に関する分科会報告を担当するなど、学界における重要な議論の形成にも貢献しています。

柳澤武氏は、雇用における年齢差別問題を主軸としつつ、幅広い労働法上の課題に対し、比較法的視点と精密な分析をもって貢献する、日本の労働法学における重要な研究者の一人です。

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