柵戸

柵戸：古代日本の辺境を守る人々

7世紀から8世紀にかけて、日本の辺境地域、特に東北地方や九州南部において、国境防衛の要として重要な役割を担った人々がいました。彼らは「柵戸（さくこ）」と呼ばれ、中央政府の政策によって各地から移住させられた人々です。

柵戸の起源と移住

『日本書紀』によれば、東北地方における柵戸の設置は、大化3年（647年）の渟足柵（ぬたりさく）にまで遡ります。翌年には磐舟柵（いわふねさく）にも柵戸が置かれ、越前国や信濃国からの住民が移住したと推測されています。これらの記録は、柵戸制度の初期段階を示す重要な史料です。

初期の柵戸は、主に北陸地方や関東地方などから、東北地方や九州南部へと移住しました。彼らは、自ら土地を開墾し、生活基盤を築きながら、城柵の建設や維持、修理に携わりました。戦時には、城柵の防衛も担う重要な役割を担っていたのです。

柵戸政策の変遷

柵戸政策は、7世紀後半から8世紀にかけて、いくつかの変遷を遂げました。養老6年（722年）以降は一時的に中断されますが、天平宝字元年（757年）以降、桃生城（ももせじょう）や雄勝城（おugatujyou）の築城に伴い、再び開始されました。しかし、この頃の移住者は、戸単位での集団移住ではなく、犯罪者や浮浪者などの移転が中心であったと考えられています。

その後、桃生城や伊治城（いじじょう）の築城、桃生郡や栗原郡の設置に際しては、陸奥国や坂東地方から住民を募り、優遇措置を与えて移住を促す政策へと変化しました。これは、強制的な移住から、より自発的な移住への転換を示す重要な変化です。

しかし、移民政策自体は継続され、延暦21年（802年）には、関東各地から4000人の浪人が陸奥国胆沢城（いさわじょう）に移住させられました。この胆沢城への移住記録が、現存する史料における柵戸に関する最後の記録となります。この政策の終焉は、桓武天皇時代の蝦夷征伐の中止と関連付けられる見解もあります。

柵戸の生活と役割

柵戸の生活は、辺境における厳しい環境の中での開墾と農業を中心としたものでした。彼らは城柵の維持管理に携わる一方で、地域の防衛にも責任を負っていました。その生活様式や社会構造については、考古学的な調査によって少しずつ明らかになってきていますが、まだ多くの謎が残されています。

まとめ

柵戸は、古代日本の辺境防衛において、不可欠な存在でした。彼らの移住政策は、時代の変遷とともに変化し、強制的な移住から自発的な移住へと移行していきました。柵戸の生活や役割、そして政策の終焉に関する研究は、古代日本の歴史を理解する上で重要な鍵となります。今後の研究によって、さらに詳細な実態が解明されることが期待されます。

参考文献

高橋崇『古代東北と柵戸』吉川弘文館、1996年
高橋崇「柵」、高橋富雄・編『東北古代史の研究』、吉川弘文館、1986年
* 橋本博文・平野卓治「古代史の舞台　坂東」、上原真人・白石太一郎・吉川真司・吉村武彦『列島の古代史1　ひと・もの・こと　古代史の舞台』岩波書店、2006年

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