栄養的分類

栄養的分類（えいようてきぶんるい）

概要

生物の分類は、形態、遺伝情報、進化系統など様々な観点から行われますが、「栄養的分類」は、生物が生命活動に必要なエネルギーや構成要素（炭素）をどのように獲得し、またどのような環境条件下で増殖・生育できるかに焦点を当てた分類法です。この分類は、厳密な系統的な位置づけよりも、生物の生態的な性質や代謝経路を簡易的かつ網羅的に理解する上で特に有用とされます。多様な環境に適応する代謝的多様性に富んだ微生物に対して適用されることが多く、動植物のような多細胞生物ではその栄養要求性が比較的限定的であるため、栄養的分類の主要な対象とはなりにくい傾向があります。

例えば、学名だけではその生態が不明瞭な場合でも、「Escherichia coli（大腸菌）は化学合成従属栄養生物である」と示すことで、有機物を分解してエネルギーと炭素を獲得するという基本的な性質を直感的に把握することができます。

基本的な分類軸

栄養的分類の最も基本的な軸は、生物が利用するエネルギー源と炭素源の種類です。

エネルギー源による分類

光合成生物（Phototroph）: 光エネルギーをエネルギー源として利用できる生物です。細胞内に光合成色素を持ち、光リン酸化の仕組みを備えています。植物、藻類、シアノバクテリア、一部の光合成細菌などがこれに属します。
化学合成生物（Chemotroph）: 光ではなく、化学物質の酸化反応から得られる化学エネルギーをエネルギー源とする生物です。多くは酸化的リン酸化によってエネルギーを獲得します。動物、菌類、多くの細菌などがこのタイプに含まれます。

炭素源による分類

独立栄養生物（Autotroph）: 細胞を構成するための主要な炭素源として、無機炭素化合物、主に空気中の二酸化炭素（CO2）を利用できる生物です。多くはCO2を固定する代謝経路（例：カルビン回路）を持っています。
従属栄養生物（Heterotroph）: 自身でCO2を固定できず、他の生物が合成した有機物を炭素源として利用する生物です。動物、菌類、多くの細菌や古細菌がこれに属します。
混合栄養生物（Mixotroph）: 二酸化炭素と有機物の両方を炭素源として利用できる生物です。環境条件や生育段階に応じて、独立栄養と従属栄養の両方の性質を示す場合や、常に両方を利用する場合があります。最近の研究では、特定の昆虫（例：カイコ）にもこのような性質が見られることが示されています。

エネルギー源と炭素源の組み合わせ

エネルギー源と炭素源の組み合わせにより、生物は以下の4つの主要な栄養タイプに分類されます。

1. 光合成独立栄養生物（Photoautotroph）: 光エネルギーを利用し、炭素源としてCO2を固定します。最も代表的なのは植物ですが、藻類、シアノバクテリア、一部の光合成細菌もこれに含まれます。
2. 光合成従属栄養生物（Photoheterotroph）: 光エネルギーを利用しますが、炭素源として有機物を必要とします。CO2を固定できません。特定の光合成細菌（例：紅色非硫黄細菌）に見られるタイプです。
3. 化学合成独立栄養生物（Chemoautotroph）: 無機化合物の酸化から得られる化学エネルギーを利用し、炭素源としてCO2を固定します。土壌や水中の特定の化学合成細菌（例：硝化細菌、硫黄酸化細菌、水素細菌）がこれに該当します。一部の鉄細菌の栄養タイプについては議論があります。
4. 化学合成従属栄養生物（Chemoheterotroph）: 有機物を分解することでエネルギーを獲得し、その有機物を炭素源としても利用します。最も普遍的な栄養タイプであり、動物、菌類、プロティスト、そして大腸菌など非常に多くの微生物がこれに属します。

これらの組み合わせ分類では、一般的に、生物が持ちうる最も「単純な」栄養要求性を基準とすることがあります。例えば、CO2を利用できる独立栄養は有機物への依存より、光エネルギーの利用は化学エネルギーへの依存よりも、より基本的な性質とみなされる傾向があります。

その他の生育条件による分類

栄養源以外にも、微生物の生育には様々な環境因子が影響します。これらの因子による分類も、栄養的分類と組み合わせて生物の生態的特徴を示すために用いられます。主な因子には、空気中の酸素濃度（好気性、嫌気性、通性嫌気性など）、生育が可能な温度範囲（好冷性、中温性、好熱性、超好熱性）、最適なpH範囲（好酸性、好中性、好アルカリ性）、必要な塩分濃度（好塩性）、圧力（好圧性）などがあります。

用法と限界

栄養的分類は、ある生物の基本的な代謝特性や生息環境の性質を簡潔に表現するのに役立ちます。例えば、大腸菌は一般的に「化学合成従属栄養・通性好気性・中温性・好中性生物」として特徴づけられます。また、メタン菌の一部は「化学合成独立栄養（または従属栄養）・偏性嫌気性・中温性（または好熱性）・好中性（または好酸性）生物」といった記述が可能となります。

ただし、これらの分類は生物の一側面を示しているに過ぎず、環境条件の変化によって栄養獲得様式が変わる可能性も存在します。また、特に微生物においては、生育条件に関する厳格な定義が存在しない場合もあり、分類がある程度の曖昧さを含むことも認識しておく必要があります。

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