栗谷沢ダム

栗谷沢ダム：戦後、灌漑用水と観光地として活躍したダムの歴史

栃木県宇都宮市新里町に位置する栗谷沢ダムは、灌漑を目的として建設されたダムです。その歴史は、第二次世界大戦中に遡ります。当時、中島飛行機のエンジン工場が宇都宮市大谷町に疎開することになり、工場の操業に必要な工業用水の確保が急務となりました。この状況を受けて、栗谷沢ダムの建設が計画されたのです。

1944年9月には測量が始まり、翌1945年3月には工事が着工。昼夜兼行で工事が急ピッチで進められましたが、同年8月の終戦によって工事は中断を余儀なくされました。しかし、終戦後、地元住民から灌漑用水の確保を目的とした貯水池の建設を強く望む声が上がり、栃木県は工事の再開を決定。そして1946年2月、栗谷沢ダムは遂に完成を迎えました。

完成した栗谷沢ダムは、鎧川を経て姿川へと流れ込むことで、ダムのある新里町だけでなく、下流域の城山村や姿川村（いずれも現在の宇都宮市域）の水田を潤し、農業の発展に大きく貢献しました。

ダムの役割は灌漑にとどまりませんでした。1951年には、下野新聞社が企画した「観光栃木八景二十勝」の県民投票において、二十勝の一つに選出されています。この選出を機に、栗谷沢ダム周辺地域は観光地としての発展が期待されるようになりました。特に、ダム周辺にある道祖神やはしか地蔵尊と合わせて、同年開通した鞍掛峠越えハイキングコースの観光ルートに組み込まれたことで、多くの観光客が訪れるようになりました。当時、県民休養地としての県立公園化計画もあったと伝えられています。

春にはヤシオツツジが咲き誇り、夏にはキャンプ場が営業。秋には紅葉が美しい景観を作り出し、ダム湖では釣りやボートなどレクリエーションを楽しむ人々で賑わいました。キャンプ場は7月中旬から8月31日までの営業で、バンガロー3棟、テント6張り、30人用山小屋1棟のほか、貸しボート10隻も備えられていましたが、現在は廃止されています。

アクセスは、栃木県道22号大沢宇都宮線沿いに位置しています。かつては関東バスの路線バスが栗谷沢ダムまで運行されていましたが、現在は近くの道の駅うつのみや ろまんちっく村までしかバスは運行されていません。自家用車でのアクセスが主体となっています。

栗谷沢ダムは、戦時中の工業用水確保から始まり、戦後は地域住民の生活を支える灌漑用ダムとして、そして観光地としても重要な役割を果たしてきた歴史を持つ、宇都宮市の貴重な存在と言えるでしょう。

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