核 (曲)

核 (CORE)

日本のシンガーソングライター、尾崎豊の作品として、通算6枚目のシングルに位置づけられる「核」（英題：CORE）。1987年10月1日、当時の所属事務所が設立した新レコード会社、マザーアンドチルドレンよりリリースされました。これは、彼にとってCBSソニーからの移籍第一弾となる作品であり、同時に12インチシングルとしては3枚目にあたります。楽曲の作詞・作曲は尾崎自身が手掛け、プロデュースは吉野金次と樫原伸彦が共同で担当しました。前作「DRIVING ALL NIGHT」（1985年）から約2年の空白期間を経て発表され、翌年にリリースされる4枚目のオリジナルアルバム『街路樹』からの先行シングルとなりました。

この楽曲の根幹には、1984年8月4日に日比谷野外大音楽堂で開催された反核イベント「アトミック・カフェ・フェスティバル'84」のために制作・演奏された「反核」という楽曲があります。当時のノートには既に完成に近い歌詞が記されており、それを基にアレンジが加えられたものです。完成版の「核」は、街からの隔絶感を歌った重苦しい歌詞、研ぎ澄まされた暴力的なサウンド、そして魂を絞り出すかのような絶叫に近いボーカルが特徴です。アルバム『街路樹』に収録されたバージョンは、ボーカルやアレンジが変更され、完全に再録音された別テイクとなっています。

リリースまでの経緯

尾崎豊は1985年のアルバム『壊れた扉から』発表後、10代最後のツアーを終え、1986年1月に無期限活動休止を宣言。同年5月には渡米し、翌1987年1月に帰国します。そして2月には、それまで所属していたCBSソニーを離れ、マザーエンタープライズが設立した新レーベル、マザーアンドチルドレンへと移籍しました。これにより、デビュー以来彼のプロデュースを手掛けてきた須藤晃との共同作業ができなくなります。尾崎は須藤のもとを訪れ、制作の困難さを吐露し、再び共に音楽制作をしたいと懇願したとされています。

アルバム制作が難航する中、1987年7月からはアルバム未完成のままコンサートツアー「TREES LINING A STREET」が開始されます。本来はツアー開始までにアルバムが完成する予定でしたが、レコーディングは遅れ、度重なる発売延期を経て、最終的にアルバムがないままツアーが始まるという事態に至ります。さらに、同年9月には公演中に倒れ、ツアーは残りの日程の大部分を残して中止となりました。公式には肝臓障害と発表されましたが、実際には覚醒剤の使用による体調不良であり、その背景には曲が書けない苦悩や、所属事務所への不信感からくる人間不信があったと言われています。

楽曲制作と録音

「核」のレコーディングは1987年に行われ、スタジオテイクワン、セディックスタジオ、スタジオスカイが使用されました。プロデュースは吉野金次と樫原伸彦が担当しています。この楽曲は、尾崎がデビュー当初から温めていたテーマや断片を基に、1984年の「アトミック・カフェ」で披露された「反核」の歌詞を改めて昇華させたものです。尾崎自身は後に「アトミック・カフェ」について、反核という本来の主題が見失われ、単なるお祭りのようになっていたと批判的な見解を示しています。

シングルとしてリリースされたバージョンは、アルバム『街路樹』収録版とは大きく異なります。アルバム版が再録音であるのに対し、シングル版のレコーディングにおいては装飾的な要素が極力排されています。ある音楽ライターは、その印象を「まるで雨に打たれているかのように灰色に塗りこめられている」と表現しています。尾崎はシングル版のテイクを気に入らず、録り直しを強く望んだものの、スタッフに拒否されたことを後に明らかにしています。

音楽性と歌詞に込められたメッセージ

音楽誌のインタビューで、インタビュアーは従来の尾崎作品と比較し、本作のボーカルの荒々しさや楽器の響きの冷たさ、全体を覆う暗澹たる雰囲気を指摘しました。これに対し尾崎は、この曲はリスナーに「ヘヴィーである事を受け入れられる心の余裕」や、自身が抱える不安感や怯えといった感情を率直に伝えたい意図があったと語っています。歌詞中の「愛してる」という言葉についても、尾崎は自身の表現する「愛」がこの楽曲の持つヘヴィーさそのものであると述べ、この言葉が内面に存在し続けたことが制作の原動力になったとも語っています。また、B面曲「街角の風の中」がサウンド的には対極に位置すると指摘された際には、歌詞を並べれば本質的に大きな違いはないだろうと答えています。

尾崎がデビュー当時からこの楽曲の原型を演奏し、時間をかけて完成版をリリースするに至ったのは、「個人の愛」こそが世界を包み込む唯一の力であり、イデオロギーとしての平和や愛だけでは不十分であるという自身の信念を確認するためだったと推測されています。リリース後に覚醒剤取締法違反で逮捕された事実と関連付け、批評家の中には、本作から覚醒剤による幻覚症状のような歪みや、強い不安感を感じ取るとする見解も存在します。また、街からの疎外感がこれまで以上に鮮烈に描かれている点や、終盤に唐突に現れる「反戦」「反核」という言葉が、日常と大きな問題との間の葛藤や、形のない恐怖の対象を示唆しているといった解釈もなされています。

リリースとチャート動向

「核」は1987年10月1日に、12インチレコード、CD、カセットテープの3形態で発売されました。当時、CDとしては珍しい12センチマキシシングルの形態が採用されました。本作にはミュージック・ビデオも制作されており、ニューヨークの街並みや尾崎の姿を追った映像が使用されています（監督：佐藤輝）。

オリコンシングルチャートでは最高位2位にランクインし、10週にわたってチャートに登場、約18.8万枚を売り上げました。1990年の再リリース盤も、最高47位を記録しています。

B面曲「街角の風の中」は、リリース当時はどのオリジナルアルバムにも収録されませんでしたが、後に複数の企画盤やベストアルバムに収録され、聴くことが可能となりました。ただし、「核」のシングルバージョンは、オリジナル盤よりもフェイドアウトが若干早いものが後に流通したパッケージに収録されている場合があるようです。

批評家の評価

この楽曲の歌詞については、批評家から様々な、時には厳しい意見が寄せられています。ノンフィクション作家の吉岡忍は、自身の著書で本作を「いい内容になりそこなった歌」と評し、尾崎が描き続けてきた社会との不調和というテーマ自体は問題ないとしつつも、本作からはその社会の具体的な情景が伝わりにくく、イメージ喚起力が弱い点を指摘しました。また、楽曲全体の不安定さや、歌唱スタイルの唐突な変化、転調の必然性の欠如、そして以前の作品に比べて声量が落ちている点などを挙げ、否定的な評価を下しています。

一方、ライターの見崎鉄は、著書『盗んだバイクと壊れたガラス 尾崎豊の歌詞論』の中で、街の疎外感と「反核」という異質なテーマが組み合わされている点に「サスペンスな感じがあって、悪くない」と一定の評価を与え、歌い出しの歌詞や、実存的な問題が社会的な問題へと自然に繋がっていく構成を好意的に捉えています。しかし、終盤が「抱きしめて 愛してる」というリフレインのみで終わる点は安易であるとし、「反戦」「反核」といった大きなテーマへと繋がる表現が不足していると指摘し、こちらも全体としては否定的な見解を示しています。

ライブでの演奏

原型となった「反核」は、1984年のライブハウスツアーや「FIRST LIVE CONCERT TOUR」で披露されましたが、1985年以降のツアーではセットリストから外れていました。完成版である「核」としては、1987年の「TREES LINING A STREET TOUR」で久しぶりに演奏され、翌1988年9月12日に東京ドームで行われた「LIVE CORE」公演でも披露されました。しかし、それ以降のツアー、例えば1991年の「TOUR 1991 BIRTH」では演奏されていません。1987年末には、広島で行われた平和コンサート「ALIVE HIROSHIMA '87」での演奏映像がテレビ東京の番組で放送されています。

もう一度検索