根上隕石

根上隕石（ねあがりいんせき）は、1995年2月18日の夜遅く、具体的には午後11時55分頃、日本の石川県能美市（当時は根上町）に飛来し、地上に到達した宇宙からの飛来物です。この出来事は、日本における隕石落下の歴史の中でも、特にユニークな事例として記憶されています。

隕石が地球の大気圏に突入し、燃え尽きずに地上に落下する様子は、遠く石川県だけでなく、隣接する富山県の住民によっても広範囲に目撃されました。目撃証言によれば、閃光や音を伴ったとされています。最終的に根上隕石が到達したのは、能美市内の一般家庭の敷地でした。

根上隕石の落下を特筆すべき事例としている最大の理由は、それが駐車されていた普通乗用車に直撃したという点にあります。これは、日本国内で確認されている隕石落下事例において、一般車両に直接衝突した唯一のケースです。衝突された車両は、当時製造されていた富士重工業（現・SUBARU）のスバル・レオーネの3代目モデルでした。隕石は車両のトランク部分に衝突し、その衝撃で分裂しました。衝突前は約500g程度の質量があったと推定されていますが、衝突後に回収されたのは、大小合わせて4つの比較的大きな破片と、多数の細かい小片を含む合計約420gでした。衝突による損傷はトランクパネルに見られましたが、幸いなことに、車両の燃料タンクなど、より重大な危険につながりかねない箇所への影響はありませんでした。

根上隕石のもう一つの重要な側面は、その発見から科学的な分析までの時間の短さです。落下した翌日には、敷地の所有者によって隕石の存在が確認されました。そして、落下からわずか2.7日後という驚異的な速さで、この隕石に対する詳細な測定が行われました。これは、日本国内で落下が確認された隕石としては、観測史上最速の測定記録となっています。測定では、隕石が宇宙空間を飛行している間に宇宙線によって生成される放射性核種、例えば半減期が約2.44日と比較的短いスカンジウム44mなどが検出されました。このような短半減期の核種が検出されたことは、この隕石が落下後ごく短時間で回収され、測定が開始されたことの強力な証拠であり、宇宙空間での履歴や地球大気圏突入後の変化を研究する上で非常に価値の高い情報をもたらしました。

根上隕石は、石質隕石の一種であるコンドライトに分類されます。さらに詳細な分析の結果、これはL6型と呼ばれるタイプの普通コンドライトであることが判明しました。コンドライトは、太陽系形成初期の原始的な物質が固まったコンドルールと呼ばれる球粒状の構造を持つことが特徴ですが、L6型は熱による変成が比較的進んでおり、コンドルール構造が不明瞭になっているか、または結晶が粗くなっているタイプです。化学組成としては、鉄分の含有量が中程度（Lタイプ）であり、高度な熱変成（タイプ6）を受けていることを示しています。この分類情報は、根上隕石が太陽系小天体のどのような場所で、どのような熱的な歴史を経て形成されたのかを知る手がかりとなります。

根上隕石に関連する資料は、落下地である能美市の施設で見ることができます。能美市根上学習センター内にある「子ども宇宙科学室」では、根上隕石のレプリカが展示されており、その形状や特徴を間近で観察することができます。また、特筆すべきことに、この隕石が直撃したスバル・レオーネの実車の一部も、隕石衝突の痕跡が生々しく残された状態で展示されています。さらに、隕石が落下した場所の近くには、この珍しい出来事を記念して記念碑が建てられており、当時の様子を偲ぶことができます。

根上隕石は、単なる空からの石というだけでなく、日本で唯一の自動車直撃という劇的な落下事例、史上最速の分析開始記録、そして科学的に価値のあるL6型コンドライトという複数の特異性を持つ、学術的にも歴史的にも非常に興味深い隕石です。その存在は、宇宙が常に変化し、私たちの身近な場所にも影響を及ぼし得ることを静かに物語ります。

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