根掛

根掛（ねがけ）

根掛とは、日本の伝統的な髪型である日本髪において、髷（まげ）の結び目の根元部分に巻きつけて用いる、一本の紐状の飾り物のことを指します。

歴史と変遷

根掛が装身具として用いられ始めたのは、比較的近代になってからです。元々は、明治時代などに活躍した娘義太夫（むすめぎだゆう）の芸人たちが、舞台上での華やかな衣装の一部として身につけていたと言われています。彼女たちの個性的な装いが、徐々に人々の間に広がりを見せました。

特に、根掛が一般家庭の女性たちの間で広く親しまれるようになったのは、大正時代に入ってからのことです。この頃、既婚女性が結う代表的な髪型であった丸髷（まるまげ）に、根掛を飾るスタイルが定着しました。地味になりがちな髷の根元に彩りを添える根掛は、当時の女性たちにとって手軽な洒落物として受け入れられ、流行のアイテムとなりました。

しかしながら、第二次世界大戦後、洋髪が主流となり日本髪を結う人が減少していくにつれて、根掛も次第に使われなくなり、現代では日常生活で目にすることはほとんどなくなりました。日本髪そのものが特別な機会にしか結われなくなったことも、根掛が姿を消した大きな要因と言えるでしょう。

形状と素材

根掛は、一般的に十数センチメートル程度の長さを持つ細い組紐（くみひも）で構成されています。この組紐には、いくつかの大ぶりな飾り玉が通されているのが特徴です。

飾り玉に使われる素材は多岐にわたりますが、特に人気があったのは、玉簪（たまかんざし）などの他の髪飾りと同様に、季節感が意識されたものです。例えば、冬の寒い時期には暖かみのある紅珊瑚（べにさんご）が、夏の暑い時期には涼やかな印象の翡翠（ひすい）が好まれました。これらの他にも、瑪瑙（めのう）や、比較的安価で手に入りやすいガラス玉なども広く用いられました。これらの飾り玉が、組紐の上でほどよく配置され、髷の根元に華やかさを添える役割を果たしました。

現在の状況

現代において根掛は、もはや日常的な髪飾りではありません。しかし、歴史的な装身具としての価値や美しさが見直される機会もあり、骨董品として流通することがあります。特に、大正時代に作られた状態の良い根掛は、古美術品を扱う市（例えば、京都の弘法市のような歴史ある市）や、インターネット上の骨董品売買サイトなどで稀に見つけることができる場合があります。当時の女性たちがどのように髪を飾り、お洒落を楽しんでいたかを知る上で、根掛は貴重な手掛かりとなる品と言えるでしょう。

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