根野村

根野村（ねのむら）は、日本の地方行政区画としてかつて広島県高田郡に存在した村です。現在ではその領域は広島県安芸高田市の一部となっています。明治時代に成立し、昭和の合併によって姿を消したこの村は、その短い歴史の中で地域社会としての歩みを進めてきました。

地理

根野村の村域には、地域の水源ともなる複数の河川が流れていました。主なものとしては、簸ノ川（へそのかわ）と根ノ谷川（ねのたにかわ）が挙げられます。これらの河川は、村の自然環境を形成する上で重要な要素であり、特に農業を主要な産業としていた村にとっては、水利という点で不可欠な存在でした。河川沿いの沖積地などが耕作地として利用され、人々の生活を支えていたと考えられます。

歴史

根野村の行政単位としての歴史は、1889年（明治22年）4月1日に施行された町村制によって始まりました。この時、それまで高田郡内に属していた上根村、下根村、そして向山村の三つの村が合併し、新しい自治体として根野村が誕生したのです。これは、近代的な地方行政システム確立のための全国的な政策の一環でした。三つの旧村が一つになることで、地域資源の共有などが可能になったと考えられます。

時代が下り、太平洋戦争末期の緊迫した状況下にあった1945年（昭和20年）には、根野村の村域にも戦争の影響が及びました。広島や呉といった、当時の日本にとって極めて重要な軍事拠点への防衛力を強化する目的から、この地域に海軍飛行場が急遽建設されたのです。しかし、戦争の終結が間近に迫っていたこともあり、この飛行場が実際に航空機の運用拠点として本格的に利用される機会はほとんどありませんでした。終戦後、その軍事的役割は完全に失われ、短期間で姿を消すこととなりました。

根野村としての歴史は、第二次世界大戦後の復興期を経て、大きな転換点を迎えます。1955年（昭和30年）3月31日、根野村は隣接する高田郡刈田村と合併しました。この合併により、新たな村として八千代村が設置され、根野村はその行政上の存在を終えることとなりました。これは、昭和の大合併と呼ばれる、全国で多数の小規模市町村が合併し、自治体の規模拡大と行政効率化を目指した大規模な再編期に行われたものです。根野村が単独の自治体として存在したのは、明治の成立からこの合併までの約66年間でした。

地名の由来

「根野」という地名の起源については、古代にさかのぼるとされています。古くはこの地に「禰村（ねむら）」という集落が存在しており、「根野」という地名は、この「禰村」の名が転訛または引き継がれて成立したものと考えられています。これは、現在の根野村の地域が、古代から人々が生活を営んできた歴史のある土地であることを示唆しています。

産業

根野村の主要な産業は、農業でした。村域を流れる河川からの豊富な水資源や、耕作に適した土地を利用して、稲作をはじめとする様々な農作物の生産が行われていたと推測されます。当時の日本の多くの農村部と同様に、農業は地域経済の基盤であり、村人たちの生活を支える中心的な生業でした。

参考文献および関連項目

『角川日本地名大辞典 34 広島県』角川書店
『市町村名変遷辞典』東京堂出版、1990年
* 広島県の廃止市町村一覧

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