桑子敏雄

桑子敏雄：哲学を基盤とした社会的合意形成の実践者

1951年7月25日、群馬県太田市に生まれた桑子敏雄は、日本の哲学者であり、社会的合意形成およびプロジェクトマネジメント分野の実践コンサルタントとして知られています。

埼玉県立熊谷高等学校を卒業後、東京大学文学部哲学科に進み、1975年に卒業。同大学院博士課程を単位取得退学し、文学部助手として研究活動を開始しました。その後、南山大学文学部での講師、助教授を経て、1989年に東京工業大学工学部助教授に就任。1994年には東京大学から博士（文学）の学位を取得し、1996年には東京工業大学大学院社会理工学研究科教授へと昇任しました。2018年からは東京女子大学現代教養学部教授を務め、2022年に退職しています。この間、1983年から1984年にはケンブリッジ大学、2002年から2003年にはフランス国立社会科学高等研究院、2009年から2011年には大連大学で客員研究員や客員教授として国際的な研究交流を行いました。

桑子氏の研究の出発点は哲学ですが、長年の教育・研究活動と並行して、現実社会が抱える課題、特に公共事業における関係者間の意見調整や合意形成の重要性に着目しました。哲学で培った思考力と分析力、そして実践から得た知見を統合し、「社会的合意形成技術」と「プロジェクトマネジメント技術」を組み合わせた独自のアプローチを確立。この手法を広く社会に還元するため、2014年には一般社団法人コンセンサス・コーディネーターズ（CCS）を設立し、その代表理事に就任しました。

CCSの活動を通じて、桑子氏は多様な公共事業の現場でコンサルティング業務を展開しています。河川改修、海岸保全、道路建設、森林管理、農村インフラ整備、都市計画など、その対象は広範に及びます。特に、行政機関と地域住民、市民団体などの間で生じる意見の相違や対立に対し、中立的な立場で調整役を務め、円滑な合意形成を図るコンセンサス・コーディネーターとしての役割を担っています。例えば、島根県における複数のまちづくり事業や河川整備計画、沖縄県での景観計画策定、静岡県での海岸・港湾整備など、全国各地で多くのプロジェクトに関与し、複雑な課題の解決に貢献してきました。

これらの実践活動は、研究活動や著作にも結実しています。哲学分野ではアリストテレス研究から環境、感性、空間といったテーマを掘り下げた著作を多数発表する一方、実践的分野においては『社会的合意形成のプロジェクトマネージャー』や『わがまち再生プロジェクト』といった著書を通じて、合意形成の技術や地域再生の手法について論じています。これらの著作は、哲学的な深い洞察と現場での豊富な経験が融合した、氏ならではの視点を示しています。

桑子敏雄は、純粋哲学の研究者から、社会の具体的な問題解決に深く関わる実践者へとその活動範囲を広げてきました。哲学的な思考を基盤としつつ、現実の複雑な状況に対応するための技術と経験を統合することで、公共政策分野におけるより良い社会の実現に貢献し続けています。

主な著作

『エネルゲイア アリストテレス哲学の創造』東京大学出版会
『環境の哲学 日本の思想を現代に活かす』講談社学術文庫
『感性の哲学』日本放送出版協会
『社会的合意形成のプロジェクトマネージャー』コロナ社
* 『わがまち再生プロジェクト』KADOKAWA

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