社会理工学研究科

東京工業大学大学院社会理工学研究科

東京工業大学大学院社会理工学研究科（英名：Graduate School of Decision Science and Technology）は、広範な学術領域を横断する学際的な研究・教育組織として設立されました。この研究科は、経済学や統計学、社会学、経営学といった社会科学、心理学や言語学などの人文学、さらに工学、理学、情報科学といった自然科学の諸分野を統合し、これらの知識を連携・応用することを目指しています。

設立背景と特色

本研究科は、東京工業大学が建学以来掲げてきた「世界をリードする理工系技術者の育成」という揺るぎない使命感を基盤としています。長年にわたり蓄積されてきた強固な理工学の学問的遺産を最大限に活用し、現代社会が直面する、より複雑で多様な人文学および社会科学領域の問題群に対して、新たな視点からアプローチすることをその主要な目的としています。

従来の文系分野における研究方法論とは一線を画し、理工系大学ならではの大きな特色として、研究対象の問題を数理的、定量的、あるいは統計的な厳密な手法を用いて深く分析する点を重視しています。これは、いわば工学で培われたツールや思考様式を、人文・社会科学のフィールドに応用することを意味しており、データに基づいた客観的かつ実証的な問題解決能力の育成に力を入れています。

設置専攻

研究科内には、それぞれの専門性を探求しつつも、学際的な連携を重視する以下の4つの専攻が設けられています。

人間行動システム専攻
この専攻では、教育政策、心理学、社会学といった、人間の行動やそれに影響を与える社会構造に関わる分野を主な研究対象としています。統計学、計量分析の手法に加え、情報科学、特にコンピュータを用いたデータ分析などを強力なツールとして活用し、これらの分野に数理的・定量的なアプローチを行います。人間の意思決定プロセス、集団行動、社会現象などを科学的に分析し、より効果的な社会システムや政策の設計に繋げる研究・教育を目指します。

価値システム専攻
哲学や数学といった、極めて抽象度が高く、体系的な思考を要求される究極的な学問言語を深く学び、徹底的な論理訓練を行います。この強固な基礎に基づき、社会の根幹をなす「価値」の概念や、複雑な社会システムの構造について深く探求します。社会システム設計に関わる高度で洗練された教養と、抽象的な問題や倫理的な課題に対処するための精緻な問題解決能力を養います。

社会工学専攻
経済学を核としつつ、経済政策や公共政策といった社会全体に関わる課題を、数理モデルや定量的な分析手法を用いて捉えます。主に経済学を中心とする社会科学の領域を深く研究するほか、環境問題や都市問題など、文系と理系の知識融合が不可欠な分野も扱い、データに基づいたエビデンスに基づく政策提言や社会制度の設計を目指します。社会全体の福祉向上に貢献する実践的な研究・教育を行います。

経営工学専攻
現代ビジネスや組織運営において不可欠とされる、論理的思考力、全体を俯瞰するシステム的思考力、高度な情報処理技術、そして必要な情報を効率的に獲得・分析する技術といった能力の育成に重点を置きます。オペレーションズリサーチ、統計的品質管理、サプライチェーンマネジメントなど、経営における様々な問題を数理的・工学的な手法を用いて解決する能力を持つ人材を養成することを目的とした研究・教育が行われています。

取得可能な学位

本研究科で所定の課程を修了した学生は、修士または博士の学位を取得することができます。授与される学位は、研究分野や専攻によって異なり、修士（工学）、修士（理学）、修士（学術）、または博士（工学）、博士（理学）、博士（学術）のいずれかとなります。

学外連携

学術交流を促進するため、2008年時点では、他大学との間で単位互換制度を締結していました。具体的には、一橋大学大学院経済学研究科および慶應義塾大学大学院経済学研究科との間で協定が結ばれており、学生が相互にこれらの大学院の科目を履修し、単位として認められる仕組みが存在しました。

著名な教員

設立以降、多くの著名な研究者が本研究科に在籍し、教育・研究を牽引してきました。例として、教育工学の室田真男、社会学の今田高俊や橋爪大三郎、文化人類学の上田紀行、開発経済学を専門とする渡辺利夫（後に拓殖大学学長）、哲学の赤間啓之などが挙げられます。

社会理工学研究科は、理工学の知見を人文・社会科学に応用するという独自の立場から、現代社会の複雑な課題に対する新しい解決策を探求し、学際的な視点を持つ高度専門職業人や研究者を育成することを使命としていました。

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