桜島爆発図

黒田清輝『桜島爆発図』：大正大噴火の記録と芸術

『桜島爆発図』は、洋画家・黒田清輝が1914年（大正3年）に発生した桜島の大正大噴火に遭遇し、その様子を日を追って描いた連作です。この作品群は、『噴煙』『噴火』『溶岩』『降灰』『荒廃』そして『湯気』の6点から構成され、自然の猛威と、それを見つめる画家の視点が記録されています。

画家・黒田清輝と桜島大噴火

黒田清輝は、1866年（慶応2年）に鹿児島で生まれました。フランス留学で西洋画を学び、帰国後は白馬会を設立するなど、日本の洋画界に大きな影響を与えた人物です。1914年（大正3年）、黒田は病床の父を見舞うため鹿児島を訪れました。その滞在中に、桜島の大正大噴火に遭遇します。この大噴火は、20世紀の日本における最大規模の火山噴火であり、黒田は噴火の様子を目の当たりにして、画家としての創作意欲を掻き立てられました。

噴火発生の知らせを受けて鹿児島に戻った黒田は、連日桜島に赴き、刻々と変化する噴火の様子をスケッチしました。そのスケッチをもとに、油彩画として制作されたのがこの『桜島爆発図』です。これらの作品は、噴火の具体的な状況を伝える記録としての価値と、画家の芸術的な感性が融合した、非常に貴重な作品となっています。

連作の詳細

各作品は、それぞれ縦13.8センチメートル、横18.2センチメートルの小品です。支持体については、板とする文献とカンヴァスとする文献がありますが、いずれにしても、その小さな画面に噴火の激しさが凝縮されています。

1. 『噴煙』：噴火開始から2日後、鹿児島築港付近から見た噴煙が描かれています。赤い溶岩と、北風に流される噴煙の動きが印象的です。
2. 『噴火』：噴煙から2日後の夕景を描いた作品です。火炎が海面に映り込む様子と、荒々しい筆致で描かれた黒煙が印象的です。
3. 『溶岩』：浄光明寺付近の丘陵から見た溶岩流を描いた作品です。烏島を取り囲むように流れ出した溶岩と、立ち上る水蒸気が描かれています。
4. 『降灰』：鹿児島市内の宿舎の庭に降り積もった火山灰を描いた作品です。庭の木々や地面が火山灰に覆われる様子が、写実的に表現されています。
5. 『荒廃』：袴腰付近から見た、焼失したミカンの樹林と雄大な桜島を描いた作品です。自然の猛威と、それに対する画家の冷静な視点が対照的に描かれています。
6. 『湯気』：溶岩が海に流れ込んだことで発生した水蒸気を描いた作品です。噴火活動が収束に向かう中で、自然のエネルギーが感じられます。

作品の評価と影響

美術史家の隈元謙次郎は、この作品群を「記録画として極めて貴重」と評しています。また、高階秀爾は、同じモチーフを異なる気象条件で描く手法が、クロード・モネの連作を想起させると述べています。

これらの作品は、黒田の画業における重要な転換点を示すだけでなく、大正大噴火という未曽有の災害を後世に伝える歴史資料としても、非常に価値が高いといえるでしょう。

現在、これらの作品は鹿児島市立美術館に所蔵されています。また、鹿児島市内には、黒田が噴火の様子を写生するために港へ向かう姿を模したモニュメントも設置され、その足跡を今に伝えています。

これらの作品は、黒田の写実的な画風と、自然の脅威を前にした人間の感動が融合した、芸術と記録の価値を併せ持つ貴重な作品群といえるでしょう。それぞれの作品には黒田自身のサインがS.Kと記されており、署名の位置も『噴煙』『噴火』『湯気』は最左下部に、『溶岩』『降灰』『荒廃』は最右下部に入れられています。

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