桜木遺跡 (世田谷区)

桜木遺跡：世田谷区に眠る縄文の記憶

桜木遺跡は、東京都世田谷区桜一丁目に位置する、旧石器時代から近現代にわたる複合遺跡です。世田谷区のほぼ中央、標高約40メートルの台地上に東西約400メートル、南北約220メートルに広がり、その面積は約80,000平方メートルと推定されています。2005年の発掘調査を機に、その重要性が明らかになりました。

発見の経緯と遺跡の概要

世田谷区で旧石器時代の遺跡が初めて確認されたのは1952年。しかし、桜木遺跡の本格的な調査は2005年まで待つことになります。当初は縄文中後期の遺跡と考えられていましたが、発掘の結果、旧石器時代から近現代に至る複合遺跡であることが判明しました。特に注目されたのは、350棟以上にのぼる縄文時代の建物跡の発見です。

桜木遺跡は、世田谷区内でも最大規模の縄文遺跡の一つであり、東京都下でも最大級の環状集落として評価されています。目黒川・烏山川水系に位置する縄文時代中期の集落遺跡群の中核、「拠点集落」であると考えられています。

遺跡の立地と周辺環境

桜木遺跡のある桜一丁目は、目黒川の上流域、烏山川の中流域にあたる場所に位置します。この地域は、古多摩川によって形成された3段の河岸段丘面からなる台地（武蔵野台地）の一部で、標高は約40メートル。遺跡は、武蔵野段丘面の目黒台と呼ばれる部分に位置し、烏山川と細谷戸川という二つの小河川に挟まれた舌状の台地上にあります。この地形が、縄文時代の人々の生活を支えたと考えられています。

発掘調査の成果

2005年の第0次調査から2015年の第11次調査まで、計14回にわたる発掘調査が行われました。これらの調査によって、桜木遺跡が旧石器時代から近現代までの複合遺跡であることが確認され、特に縄文時代中期の集落跡が詳細に調査されました。出土した縄文時代の遺物は、2009年に世田谷区の指定有形文化財に指定されています。

旧石器時代の遺物

第0次調査、第1次調査、第8次調査（その1）で、剥片やナイフ形石器などの旧石器時代の遺物が出土しています。

縄文時代の遺構と遺物

14回にわたるすべての調査で縄文時代の遺構が発見されています。特に第1次調査では、350棟以上の縄文時代の建物跡が発見され、大きな注目を集めました。これらの建物跡は縄文中期のもので、環状集落を形成していたと考えられています。集落の継続期間は約800年間と長く、目黒川水系最大の縄文時代中期の集落であると評価されています。

土器は縄文早期から晩期までのものが出土しており、各時期の様式を知ることができます。また、石器や土製品も多数出土しており、当時の人々の生活や文化を窺い知ることができます。第11次調査では、世田谷区で初めてとなる三角柱状土製品が出土し、祭祀との関わりが推測されています。

古墳時代・平安時代の遺構

第1次調査では、古墳時代中期（5世紀）と後期（6世紀）の集落跡や、平安時代（10世紀）の建物跡も発見されています。これらの発見は、武蔵野台地内陸部の開発史や、当時の社会構造を考える上で重要な資料となっています。

近世以降・近現代の遺構

各次調査では、近世以降から近現代にかけての遺構も発掘されています。これらは、農地の区画溝や、第二次世界大戦中に作られた待避壕（防空壕）などです。

桜木遺跡の意義

桜木遺跡は、武蔵野台地における縄文時代中期の集落の様子を知る上で、非常に重要な遺跡です。その規模の大きさ、集落の継続期間の長さ、そして出土遺物の豊富さから、当時の人々の生活や文化、社会構造を深く理解することができます。また、周辺の小規模集落との関係性を示す資料としても貴重であり、縄文時代の地域ネットワークを解明する上で重要な鍵を握っています。

文化財指定と保存

桜木遺跡から出土した遺物は、世田谷区宇奈根考古資料室に保管されています。2009年には、縄文時代の遺物一括が世田谷区の指定有形文化財に指定され、その価値が改めて認められました。遺跡の中心部にあたる土地は警視庁が所有しているため、建物跡などの遺跡については「記録のみ」の保存となりましたが、出土品は現物保存されています。

桜木遺跡は、都市化が進む東京において、貴重な縄文時代の記憶を今に伝える存在です。今後の調査や研究によって、さらに多くの発見が期待されます。

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