梶原平三誉石切

梶原平三誉石切：源氏再興と名刀の物語

『梶原平三誉石切』（かじわらへいぞうほまれのいしきり）、通称「石切梶原」は、歌舞伎における人気演目のひとつです。享保15年（1730年）に初演された浄瑠璃「三浦大助紅梅靮」の三段目「星合寺の段」を原作とし、現在では独立した演目として上演されています。

あらすじ：鶴岡八幡宮での出来事

伊豆に流されていた源頼朝は石橋山の戦いで敗北し、潜伏していました。頼朝方の三浦大助や真田文蔵らは、再起を図るため軍資金調達に奔走。文蔵の許嫁である梢とその父、青貝師六郎太夫も家伝の宝刀を売りに出します。

鶴岡八幡宮に参詣した平家方の武将、大庭三郎と俣野五郎。そこに、平家に心を寄せる梶原平三も現れます。神前で盃を交わす彼らのもとへ、六郎太夫親娘が宝刀を売りに来ます。大庭は梶原に鑑定を依頼し、名刀と認められますが、俣野は切れ味を試すよう要求します。

六郎太夫は、試し切りに囚人を差し出そうとしますが、囚人は一人しかいません。梢は身を挺して試し切りになろうとしますが、その時、伊東入道から頼朝再挙の知らせが届きます。

大庭は帰ろうとしますが、六郎太夫は梢に嘘をつき、時間を稼ぎます。そして自ら囚人とともに試し切りを受ける決意をします。梢が戻ってきた時には既に遅く、二人は覚悟を決めます。

梶原は刀を振るい、囚人を斬りますが、六郎太夫の縄は切れませんでした。しかし、梶原は刀の差裏に八幡の文字を見て、父娘が源氏に縁のある者だと気づき、命を救います。

実は梶原は源氏に味方しており、石橋山の戦いで頼朝を助けた人物だったのです。彼は自らの正体を明かし、手水鉢を真っ二つに切ることで、名刀であることを証明します。三百両で刀を買い取り、三人は喜びに満ちて八幡宮を後にします。

名優たちの競演と演出

『石切梶原』は、役者の力量が試される演目として知られています。梶原、大庭、俣野、梢、六郎太夫といった、歌舞伎の典型的な役柄が揃い、豪華な舞台装置も相まって、人気を博しています。

三代目中村歌右衛門が原型を作り、明治期の初代市川左團次、大正期の十五代目市村羽左衛門、初代中村鴈治郎、初代中村吉右衛門らがそれぞれ独自の演出を確立しました。

梶原役には風格と口跡が求められ、大庭役には敵役としての品格が、六郎太夫役には老父の慈愛と武士の潔さが求められます。多くの名優たちがそれぞれの解釈でこの演目を演じ、名場面を生み出しました。

羽左衛門系は「名橘誉石切」、鴈治郎系は「梶原平三試名剱」、富十郎は「名鷹誉石切」など、外題も様々です。それぞれの演出の特徴も異なり、鴈治郎は原作に忠実、羽左衛門は華やかさを重視、吉右衛門は六郎太夫の心情を重視するなど、多様な解釈が存在します。

みどころ：三部構成と名場面

演目は「目利き」「二つ胴」「石切り」の三部構成。梶原の型、囚人のユーモラスな台詞、紅白の梅の花が散る美しい場面、そしてクライマックスの「石切り」など、見どころが満載です。

特に「石切り」の場面は、それぞれの役者の演出によって異なり、鴈治郎と羽左衛門はシンメトリー、吉右衛門は影を使う演出など、様々な工夫が凝らされています。

「あれモシ父さん」「剣も剣」「切り手も切り手」の掛け合いも名場面で、かつては大向こうからの掛け声で劇場が盛り上がっていました。

梶原景時の実像と作者の意図

史実の梶原景時は、頼朝に仕えたものの、義経と争い、讒言をしたとも伝えられています。しかし、本作では思慮深く正義感ある人物として描かれています。これは作者の意図であり、作中にもその旨の台詞があります。

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