森長英三郎

森長英三郎（もりなが えいざぶろう）は、1906年1月10日に徳島県で生まれ、1983年6月1日に生涯を閉じた、日本の弁護士です。彼の人生は、学業での成功、文学への憧憬、挫折、そして社会正義を追求する弁護士としての活動という、多様な要素が織りなされています。

生い立ちと放浪

森長は、小学校を首席で卒業するという優秀な成績を収め、その後、県立農学校（現在の徳島県立城西高等学校）に進学しました。しかし、彼は作家になるという夢を抱き、明治学院に進みます。文学への情熱を燃やした森長でしたが、学院を「除籍」となってしまい、山谷や浅草で放浪生活を送ることになります。この時期の経験は、彼の人生観や社会に対する視点に大きな影響を与えたと考えられます。その後、彼は故郷に帰り、再び上京して1932年に日本大学を卒業しました。

弁護士としての活動

1936年、森長は弁護士登録を果たし、法律家としてのキャリアをスタートさせます。彼の弁護士としての活動は、多岐にわたりました。特に注目されるのは、治安維持法違反事件を担当したこと、そして戦後は自由法曹団に参加し、労働事件に積極的に取り組んだことです。森長は、社会的に弱い立場に置かれた人々の権利を守るために尽力しました。

また、彼は三島由紀夫の「宴のあと」訴訟において、プライバシー権という新たな法的概念を提起しました。この訴訟は、個人のプライバシー保護の重要性を社会に認識させる上で重要な役割を果たしました。さらに、彼は大逆事件の再審請求も担当し、過去の冤罪事件の真相解明にも尽力しました。

著書

森長は、法律に関する専門書だけでなく、社会問題や歴史に関する著作も多く残しています。

『生産管理の法律問題』（1948年）
『労働者の為の労働基準法逐条解説』（1949年）
『労働協約と就業規則』（1953年）
『労働訴訟の手引』（1954年）
『やさしい労働法 「生きた法」をさぐる』（1956年）
『大石誠之助の情歌』（1965年）
『史談裁判』（1966年）
『風霜五十余年 大逆事件』（1967年）
『史談裁判 続』（1969年）
『史談裁判 第3集』（1972年）
『山崎今朝弥 ある社会主義弁護士の人間像』（1972年）
『史談裁判 第4集』（1975年）
『禄亭大石誠之助』（1977年）
『裁判自由民権時代』（1979年）
『足尾鉱毒事件』（1982年）
『日本弁護士列伝』（1984年）
『新編史談裁判』（1984年）
『内山愚童』（1984年）

これらの著書からは、森長の幅広い知識と、社会に対する深い洞察力が伺えます。特に、『史談裁判』シリーズは、歴史的な事件を題材に、法と社会の関係について考察した著作として知られています。

共同著作と編集

森長は、他者との共同著作や、資料の編集・解説も行っており、

『弁護士案内』（1961年、正木ひろし共著）
『弁護士の選び方 悪い弁護士・良い弁護士』（1964年、正木ひろし共著）
『大石誠之助全集』（1982年、仲原清共編）
『山崎今朝弥 地震・憲兵・火事・巡査』（1982年、編・解説）
* 『荒畑寒村 大逆事件への証言』（1975年、編・解説）

彼の精力的な活動は、法曹界だけでなく、社会全体に大きな影響を与えました。

森長英三郎は、その生涯を通じて、弁護士として、また著述家として、社会正義の実現と人々の権利擁護のために尽力しました。彼の足跡は、日本の法曹史、社会運動史において、重要な位置を占めています。

もう一度検索