植物の知覚

植物の知覚

植物は、単にそこに存在しているだけでなく、周囲の環境を敏感に感じ取り、それに応じて様々な反応を示す能力を持っています。この能力を「植物の知覚」と呼びます。植物は、光、温度、重力といった物理的な刺激だけでなく、化学的な刺激や、他の生物からの攻撃など、多様な情報を感知し、生存戦略に役立てています。

外部刺激の知覚

傷の知覚

植物は、傷つけられたことをどのように感知し、どのように対応しているのでしょうか？ 埼玉大学大学院の研究グループは、モデル植物であるシロイヌナズナを用いて、そのメカニズムの一端を明らかにしました。

シロイヌナズナが傷つけられると、傷口からグルタミン酸が放出されます。このグルタミン酸をグルタミン酸受容体（GLR）が受容すると、細胞内にカルシウムイオン（Ca2+）のシグナルが発生します。このCa2+シグナルが、師管を通じて全身に伝達され、シグナルを受け取った葉では、防御反応が活性化し、抵抗性が向上することが確認されました。

この研究から、植物は師管を動物の神経のような役割を果たし、グルタミン酸とカルシウムイオンを痛みの伝達物質として利用している可能性が示唆されました。つまり、植物は傷つけられたという情報を全身に伝達し、防御体制を整えることができるのです。

匂いの知覚

植物はどのように匂いを感知しているのでしょうか？ 東京大学の研究グループは、タバコを用いた研究で、葉の細胞の核内にあるタンパク質が匂い受容体として機能し、匂い物質と結合して匂いを認識していることを発見しました。このタンパク質は、遺伝子の転写を制御する役割も担っており、匂いの情報が植物の成長や防御反応に影響を与えていると考えられます。

味の知覚

植物にも、味覚に似た機能があることがわかってきました。東京大学大学院農学生命科学研究科の研究グループは、つる植物が同種を味覚（接触化学識別）で認識し、同種に巻き付かないように避けていることを明らかにしました。

ヤブガラシを用いた実験では、同種と他種の植物につるが同時に接した場合、ヤブガラシは正確に他種の植物へと巻き付いていくことが確認されました。また、同種に巻き付きそうになっても、巻き戻る能力も持っていることがわかりました。

ヤブガラシは、同種の植物をシュウ酸の量で認識していると考えられています。実際に、シュウ酸を塗った棒と他の試薬を塗った棒を用意し、ヤブガラシがどちらに巻き付くかを比較したところ、シュウ酸を塗った棒を避ける傾向が見られました。このことから、ヤブガラシはシュウ酸への接触を通じて化学的な認識を行っており、味覚のような識別機構を持っていると考えられます。

植物の知覚に関する研究は、まだ始まったばかりですが、これらの発見は、植物の能力に対する私たちの理解を深め、新たな農業技術の開発や環境問題への応用につながる可能性を秘めています。

関連項目

植物の知性
植物の権利

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