植物採集

植物採集とは

植物採集とは、植物を採取する行為のことで、その目的は多岐にわたります。植物学的な研究のための標本作成、園芸や生け花のための材料収集、あるいは芸術的な押し花のための素材集めなど、様々な動機で植物が採集されます。特に科学的な目的で行われる採集では、採取された植物は標本として保存され、その中でも押し葉標本が標準的な方法とされています。

植物採集の概要

植物採集の機会は、山菜摘みやワラビ採りといった身近なものから、夏休みの自由研究、専門的な植物学調査まで様々です。科学的な目的の場合、採集された植物は押し葉標本として保存されることが一般的です。押し葉標本は、植物を新聞紙に挟んで圧迫乾燥させることで作られ、その手軽さと保存性の高さから広く利用されています。ここで言う植物とは、主に維管束植物（シダ植物、裸子植物、被子植物）を指し、藻類やコケ植物は別の分野として扱われます。

植物採集の歴史

植物採集の歴史は、昆虫採集と同様に古く、その背景には国家的な事業としての側面が強くありました。特に、海外の未知の植物資源は貴重な価値を持ち、探検や航海の目的の一つとして植物採集が行われた歴史があります。例えば、大航海時代には、香辛料を求めて危険な冒険が繰り広げられ、多くの艦船に植物採集者が同乗しました。日本でも、江戸時代に渡来したオランダの医師たちが多くの植物をヨーロッパに持ち帰った記録があります。ペリー来航時にも、植物採集が行われ、それらの標本が博物学の進歩に大きく貢献しました。また、植物学を学ぶ者にとって、植物採集は必須の行為であり、南方熊楠や牧野富太郎といった著名な植物学者も、積極的に植物採集を行っていました。近年では、小中学校の夏休み自由研究での植物採集は減少傾向にありますが、依然として植物採集は、自然に触れる機会として一定の需要があります。

植物採集の方法

植物採集は、植物が生息する場所であればどこでも可能ですが、山奥には珍しい植物が生息していることが多いです。そのため、野外活動の準備が必要になります。また、都会の空き地や埋立地などでも、新しい帰化植物が見つかることがあります。植物採集は、昆虫採集とは異なり、植物が動かないため、広範囲を歩き回って探すことが主な方法となります。

必要な道具

植物採集に必要な道具は、昆虫採集ほど特殊なものは多くありません。剪定バサミや根掘りなど、園芸用品で代用できるものがほとんどです。根掘りは、根を傷つけずに掘り起こすために頑丈なものが望ましいです。植物採集の特殊な道具としては、胴乱（どうらん）と野冊（やさつ）があります。胴乱は、採集した植物を一時的に収納するもので、現在ではビニール袋で代用されることが多いです。野冊は、植物標本を挟むための新聞紙を束ねて持ち運びやすくしたもので、採集した植物をすぐに挟むことで、傷みを防ぐことができます。

採集部位

採集する部位は、可能な限り植物体全体、特に根を含めた地下部までを採集することが理想です。地下部の特徴も同定には重要な情報となるからです。ただし、希少な植物や保護が必要な植物の場合は、地上部のみの採取に留めるべきです。樹木の場合は、枝の一部を採集し、葉の付き方や枝分かれの様子がわかるようにします。また、花や果実などの生殖器官は、植物の分類において重要な特徴であるため、可能な限りこれらを含む部分を採取します。時期によって植物の形態は変化するため、様々な段階のものを複数採集すると良いでしょう。

重複標本

専門家は、同一の植物から複数の標本（重複標本）を採取することがあります。これらの重複標本は、同一の標本として扱われ、標本番号も同じ番号が付与されます。新種記載が行われる際に、これらの重複標本は重要な役割を果たします。

事後処理

採集した植物は、できるだけ早く押し葉標本にすることが重要です。根についた土を洗い落とし、虫や枯れた部分を取り除いた後、新聞紙に挟んで乾燥させます。押し葉標本の詳しい作成方法は、専門の書籍や資料を参照してください。

植物採集と自然保護

植物採集は、自然破壊に繋がる側面も持ち合わせています。特に、山野草愛好家による過剰な採集は、特定の植物を絶滅の危機に追いやる可能性があります。植物採集を行う際には、希少な植物や保護対象の植物を採取しないように心がけ、自然保護の観点を常に意識することが重要です。

まとめ

植物採集は、単なる植物の収集に留まらず、植物学的な研究、園芸、芸術など、様々な分野に関わる興味深い行為です。植物採集の際には、歴史や方法を理解し、自然保護にも配慮することが大切です。この行為を通して、植物への理解を深め、自然の恵みを大切にする気持ちを育んでいきましょう。

参考資料

北村四郎他(1957),『原色植物図鑑　草本編I』,保育社
田中徳久、(2011)、植物の重複標本という考え方.　自然科学のとびら Vol.17(4)p.30

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