検索表

検索表（Identification Key）とは

検索表とは、生物の種などの分類群を同定する際に補助として用いられるツールです。通常、文章で示される二者択一の選択肢から一つを選び進むことで、最終的に分類群を特定できるようになっています。英語ではIdentification Keyと呼ばれ、未知のものを解き明かす「鍵」という言葉が生物学に応用されたものと考えられます。

検索表の概要

生物の同定は、形態の類似性や個体変異などにより難しい場合があります。検索表は、そのような状況で、目的の種を特定するための手助けとなります。

最も一般的な検索表は二者択一式で、生物の分類に利用できる特徴の中から、明確に区別できるものを選択肢として提示します。選択肢のどちらかを選ぶと次の選択肢へと進み、これを繰り返すことで候補となる種を絞り込んでいきます。

検索表は図鑑によく掲載されており、特に専門性の高い図鑑には必須と言えるでしょう。また、検索に特化した「検索図鑑」というものも存在します。

一方で、子供向けや近年の写真図鑑では、複雑さを避けるためか、検索表が省略されることもあります。ただし、これらの図鑑は網羅性が低い場合が多く、検索表があっても十分に活用できない可能性があります。

専門的な書籍、例えば植物誌などには、ほぼ必ず掲載されています。学術論文においては、特定の分類群を網羅的に扱ったモノグラフや、新分類群の記載の際に検索表が添付されることが多いです。これは、類縁群との区別を明確にし、全体像を見通しやすくする役割を果たします。

検索表の具体例

以下に、水田で見られる魚（メダカ、フナ、ドジョウ、ナマズ）を対象とした簡単な検索表の例を示します。

1. 口元に髭がある → 2へ
2. 口元に髭がない → 3へ
3. 頭部は偏平で幅広い → ナマズ
4. 頭部は偏平でない → ドジョウ
5. 体は左右に偏平で、中央付近が幅広い → フナ
6. 体は左右に偏平ではない → メダカ

例えば、捕獲した魚の口元に髭があれば「1」の上を選択し、「2」に進みます。次に、頭部の形状を確認し、偏平で幅広ければ、その魚はナマズであるという候補が挙がります。

検索表で取り上げる形質

検索表を作成する上で重要なのは、どのような形質を取り上げるかという点です。利用者の立場からは、明確に区別できる特徴が望ましいです。大きさは重要な特徴の一つですが、成長段階によっては判断が難しい場合があります。色も目立つ特徴ですが、変異が多く役に立たない場合もあります。

作成者の立場からは、対象とする群の中で特に異質なものを最初に除外するという方法があります。それ以外は、検索の目的に応じて適切な形質を選択する必要があります。

検索表の対象範囲

検索表は、それぞれ対象とする範囲が定められています。対象とする分類群の範囲が狭いほど、検索表は有効に機能します。図鑑や学術論文に掲載されている検索表は、通常このタイプです。

一方で、土壌動物や海底の底生生物など、非常に広範囲な生物群を対象とする検索表も存在します。この場合、対象となる生物群は多岐にわたり、異なった体制を持つ生物を区別する必要があります。

一般的に、対象とする群が大きくなるほど、検索表は扱いにくくなります。高次分類群間の差は、外見からは判断しにくい場合が多く、例外も多くなります。

検索表の振り分けの方向性

検索表における振り分け方には、大きく分けて2つの方向性があります。1つは分類体系に沿ったもの、もう1つは判別の簡便さを重視したものです。

分類体系に沿った検索表

生物の分類は、階層的な構造を持っています。分類体系に沿った検索表は、この階層構造に従って生物を振り分けていきます。専門書や専門性の高い図鑑では、この形式が多く用いられます。この形式の利点は、分類体系の見通しが良いことですが、例外的な種には対応できない場合があります。また、高次分類群の場合、検索表が非実用的になることがあります。

判別を狙った検索表

分類体系を無視して、とにかく見分けることを目的として組み立てるのが、判別を狙った検索表です。植物の検索図鑑などでは、葉の形や鋸歯の有無など、分類体系とは関係のない特徴で生物を仕分けていきます。この方法は、分類体系的な見通しは良くありませんが、現実的には扱いやすいという利点があります。

図との併用

検索表は文章で表現できるものを対象とするのが一般的ですが、図を併用することもあります。図を併用することで、初心者でも取っつきやすくなり、大まかにいくつかの型に分けることが容易になります。ただし、実際には中間的なものや曖昧なものも存在し、明確に割り切れない場合もあります。

検索表の問題点と限界

検索表は便利なツールですが、万能ではありません。対象とする個体が標準から外れている場合や、個体変異が大きい場合など、うまく機能しないことがあります。

また、検索表は候補を絞る過程に過ぎないため、最終的な結果を鵜呑みにしてはなりません。必ず詳細な解説や図版と照らし合わせ、確認する必要があります。さらに、検索表に掲載されていない生物、例えば新発見種や未記載種である可能性も考慮する必要があります。

微生物における検索表の特殊性

微生物、特に細菌類では、形態が単純であることが多く、生理作用が重要な特徴となります。しかし、生理作用を検索表に持ち込むと、判定が曖昧になることが多く、検索表として機能しない場合があります。

検索表の代替的手法

検索表は、特徴に順位をつけて扱う点に問題があります。この問題を解決するため、特徴の一覧を作成する方法があります。例えば、ある属の種をすべて取り上げ、種の区別に使える特徴を網羅的にリストアップします。そして、それぞれの特徴に当てはまる種をすべて列挙します。利用者は、対象の標本に見られる特徴を調べ、それぞれの特徴から選べる候補種のうち、共通するものを候補として絞り込みます。この方法は、形質に順位がないため、分かりやすい形質から順に調べることができます。また、標本から得られない形質は無視できます。ただし、この方法は人間の能力では手に余るため、コンピュータを利用する必要があります。今後は、この方向での活用が期待されます。

参考文献

S.T.コーワン (駒形和雄・杉山純多訳) 『微生物分類用語辞典』 (1968、1977日本語版） 学会出版センター
片倉晴雄・馬渡俊輔編 『動物の多様性』, (2007), シリーズ21世紀の動物科学2（培風館）

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