楠木正氏

楠木正氏（くすのき まさうじ）は、通称弥四郎（やしろう）として知られる、鎌倉時代後期から南北朝時代にかけての武将です。彼は、名将・楠木正成の甥にあたります。

正氏は、延元元年/建武3年（1336年）5月25日、湊川の戦いにおいて伯父（または叔父）である正成のもとで戦いに参加しました。この戦いにおいて、足利方の武将であり、広峯神社の総長である広峰昌俊と激しい戦いを繰り広げました。

『広峰文書』によれば、正氏は昌俊と幾度も刃を交え、昌俊の兜の吹返しを斬りつけるなど、奮戦しました。しかし、最終的には昌俊に討ち取られました。正氏の首は足利軍の陸側大将であった足利直義のもとに届けられ、翌26日に首実検が行われ、確認が完了しました。同年7月には、昌俊がこの戦功に関する軍忠状を作成し、高師泰の承認を得ています。

興味深いことに、昌俊の軍忠状には「弥四郎」という通称しか記されていませんが、同文書中の『広峰系図』においては、弥四郎の諱が「正氏」であるとされています。しかし、一次史料によって実在が確認されているにもかかわらず、『尊卑分脈』版および『群書類従』版の『橘氏系図』や、軍記物である『太平記』には、正氏に該当する人物が登場しません。これは、彼が謎の多い人物であることを示唆しています。

さらに、両『橘氏系図』においては、「正氏」は正成の弟、つまり正季の別名として記載されています。もし広峰昌俊と高師泰が虚偽の書状を作成したのでなければ、正氏は正成の兄弟の中で唯一実在が確定している楠木正季の息子である可能性が考えられます。また、年齢的な側面から考えると、『橘氏系図』において正成・正季の兄とされながらも、名前以外の業績が全く不明である楠木俊親の息子である可能性も否定できません。

このように、楠木正氏は史料にその名が刻まれながらも、その出自や詳細な経歴については多くの謎に包まれた人物と言えるでしょう。

もう一度検索