極北のナヌーク

『極北のナヌーク』について

『極北のナヌーク』（きょくほくのナヌーク、英語: Nanook of the North）は、1922年にアメリカの映画監督ロバート・フラハティが手掛けた作品で、映画史上初のドキュメンタリー映画とも称されています。この作品はカナダ北部に住むイヌイットの文化や日常生活を詳しく描いており、地域社会の厳しい環境下での貴重な映像を提供しています。

概要

映画の舞台はカナダのケベック州北部にあるアンガヴァ半島のイヌイットの村で、壮年の狩人ナヌークと彼の家族を中心とした物語が展開します。ナヌークは勇敢な狩人で、彼の妻ナイラおよび子どもたちと共に、極寒の環境で生活を維持するために協力し合います。この作品では、ナヌークが狙った獲物を捕らえる様子や、家を建てるために雪を使ってイグルーを作る姿、また文明の利器を拒む彼の姿勢が描かれており、特に教育の重要性が強調されています。

あらすじ

ナヌークはアンガヴァ半島の族長として、妻ナイラ及び三人の子どもたちと共に生活しています。夏になると彼らは交易所に足を運び、獲得した毛皮を売却します。このとき、子どもたちは映画スタッフからもらった食べ物に興奮し、ナヌークは蓄音機に興味を持ちます。冬が近づくと、家族は流氷の隙間を利用して魚を捕まえたり、セイウチを狙った狩りに出たりします。そして厳しい寒さの中、犬橇に乗って移動し、雪で作られたイグルーで家族と共に生活します。

製作と公開

ロバート・フラハティは、1910年初頭にカナダ太平洋鉄道を利用してハドソン湾沿岸を旅し、厳しい自然環境の中で生きるイヌイットの姿に強く感銘を受けました。その結果、彼は彼らの生活を映画で記録したいと考えるようになり、モーフィンカメラを使用して撮影を開始しました。最初の撮影素材は火災によって失われましたが、フラハティは再び資金を集めて1920年から1921年に再度現地を訪れ、イヌイットの視点を重視した撮影を実施しました。この作品は1922年に公開され、カナダや米国だけでなく、世界各地で注目を集めました。

映画の注目点

『極北のナヌーク』は、映像と現実を融合させた新たな視点を提供しましたが、その一方で撮影手法には批評も存在します。実際のナヌークの名前は「アラカリアラック」であり、彼の家族も実際の家族ではありませんでした。フラハティは観客にとって理解しやすいように架空の名前を使い、協力者たちを演技させながら撮影しました。また、当時のイヌイットは近代化が進んでおり、映画の中の描写とは異なる生活を送っていました。

評価

映画の成功以降、フラハティは厳しい自然環境での人々の様子をテーマにした作品を制作し続けます。この作品は、イギリスの映画プロデューサーであるジョン・グリアソンによって「ドキュメンタリー」という言葉が初めて使われ、その意義が再評価されるきっかけとなりました。近年では、映画理論や映像人類学の分野でも重要な作品とされ、さまざまな評価がなされています。2014年、イギリスの映画専門誌『サイト＆サウンド』のランキングで「優れたドキュメンタリー映画」として評価されるなど、時代を超えて評価され続けています。

結論

『極北のナヌーク』は、ただの映画ではなく文化的、歴史的な価値を持つ記録として位置づけられています。この映画を通じて、我々は極地の自然環境と、そこに生きる人々の勇気と知恵を見つめ直すことができるのです。

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