楽韶鳳

楽韶鳳（がく しょうほう）は、生没年不詳の元末から明初の儒学者で、字を舜儀と称しました。滁州全椒県を本貫とし、その博学と文章力で知られていました。彼の生涯は、明朝の成立と初期の国家体制の整備に深く関わっています。

楽韶鳳は、朱元璋が和陽にいた頃にその才能を見出され、仕官しました。朱元璋に従い長江を渡り、軍事の要職である参軍事を務めました。明朝が成立した洪武3年（1370年）には、皇帝の言行を記録する起居注に任じられ、その後も様々な官職を歴任しました。洪武6年（1373年）には、兵部尚書という要職に就き、中書省、御史台、都督府と共に軍士の訓練方法を定めるなど、軍事面でも重要な役割を果たしました。

その後、侍講学士に転じ、楽韶鳳の学識はさらに重用されることになります。洪武帝（朱元璋）の命により、詹同と共に釈奠（せきてん、孔子を祀る儀式）で使用される音楽の校訂に携わり、祭祀音楽の整備に貢献しました。また、暦の編纂にも携わり「大明日暦」を編集するなど、文化事業にもその才能を発揮しました。

洪武7年（1374年）には、洪武帝が祭礼から帰還する際に使用される楽舞の作詞を命じられ、「神降祥」「神貺恵」「酣酒」「色荒」「禽荒」といった曲を作詞し、全39章からなる「回鑾楽歌」を完成させました。これらの楽章は、皇帝の威厳と祭礼の荘厳さを表現する上で重要な役割を果たしました。

洪武8年（1375年）、宮中で使われる音韻に江南地方出身者の訛りが混じっていることを憂慮した洪武帝は、楽韶鳳に廷臣と共に中原の正しい発音（雅音）を参考にして音韻を正すよう命じました。楽韶鳳は、この勅命に応え、音韻を整理した書物を完成させ、それは『洪武正韻』と名付けられました。この業績は、明朝における標準的な発音を定める上で非常に重要なものとなりました。さらに、孝陵での祭祀や儀礼についても、故実に詳しかった楽韶鳳の意見が尊重され、採用されました。

その後、病により一時免官されましたが、間もなく祭酒として再び起用されました。皇太子や諸王との間でやり取りされる書簡の儀礼を定めるよう命じられた際も、楽韶鳳の精密な考証は洪武帝から高く評価されました。洪武13年（1380年）には、高齢のため致仕し、故郷に帰りました。その後、長寿を全うしたと伝えられています。

楽韶鳳の業績は、軍事、文化、礼楽、音韻など多岐にわたり、明朝初期の国家体制の整備と文化の発展に大きく貢献したと言えるでしょう。また、彼の弟である楽暉、楽礼、楽毅もまた、それぞれ名を知られた人物であったとされています。

楽韶鳳の事績は、『明史』巻136 列伝第24に詳しく記されています。

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