榎 (橘型駆逐艦)

日本海軍駆逐艦「榎」：悲劇の座礁とその後

日本海軍の駆逐艦「榎」は、舞鶴海軍工廠で建造された橘型（改松型）駆逐艦です。艦名は植物の榎から名付けられ、楢型駆逐艦の「榎」に続く2代目となります。

竣工後、「榎」は第十一水雷戦隊に所属し、瀬戸内海、日本海で訓練に従事しました。しかし、空襲の危険性から舞鶴を離れ、小浜湾に移動します。

運命の日は1945年6月26日、小浜湾内で「榎」は触雷、座礁しました。艦は右に32度傾き、艦尾を着底、艦橋の一部が水面に露出する状態となりました。乗組員は救出されましたが、負傷者は小浜中学校に収容されました。そのまま終戦を迎え、9月30日には除籍されます。

「榎」のその後については、複数の記録が残されています。運輸省海運総局の資料では1948年6月から7月1日に三菱七尾造船所で解体されたとされています。しかし、実際には小浜湾にしばらく残された後、朝鮮戦争特需の際に飯野産業によって1951年4月から8月にかけて浮揚、解体されたと推測されています。

「榎」の悲劇的な歴史を後世に伝えるため、1981年6月26日、遺族や生存者によって、座礁地点を見下ろす場所に慰霊碑が建立されました。碑文には、艦の短い生涯と、その最期が刻まれています。

「榎」を題材とした作品も存在します。1979年には劇団「久須夜」により演劇『海ゆかば水づくかばね―悲劇の駆逐艦「榎」―』が上演されました。そして2019年には、この演劇を原作とした漫画『榎がいた海　駆逐艦榎の最後』が永月にに氏によって発表されています。

これらの記録や作品は、「榎」の短いながらも激動の人生、そしてその終焉を伝える重要な資料となっています。戦火の悲劇を忘れずに、平和を祈念する上で、「榎」の物語は深く考えさせられるものです。

艦歴詳細

竣工後: 第十一水雷戦隊に編入され、瀬戸内海西部で訓練に従事。その後、日本海側へ移動。
1945年5月27日: 舞鶴に到着するも、空襲の危険性から舞鶴以外の場所への移動を要請される。
1945年6月: 小浜湾へ移動。
1945年6月26日: 小浜湾内で触雷、座礁。
1945年9月30日: 駆逐艦籍から除籍。
1948年（資料による）: 三菱七尾造船所で解体。
1951年（推定）: 飯野産業により浮揚、解体。

関係者

艤装員長、駆逐艦長: 若松武次郎大尉

参考文献

海軍歴史保存会『日本海軍史 第7巻』
片桐大自『聯合艦隊軍艦銘銘伝』
外山操『艦長たちの軍艦史』
永月にに、福井県立小浜中学校併設中学校卒業「榎会」『榎がいた海　駆逐艦榎の最後』
福井静夫『終戦と帝国艦艇 わが海軍の終焉と艦艇の帰趨』
歴史群像編集部『歴史群像太平洋戦史シリーズVol.43 松型駆逐艦』
* アジア歴史資料センター

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