模倣犯 (小説)

宮部みゆき『模倣犯』の詳細解説

『模倣犯』は、宮部みゆきによる長編小説で、1995年から1999年にかけて『週刊ポスト』に連載され、2001年に小学館から単行本として刊行されました。その後、新潮文庫版も刊行されています。2002年には映画化、2016年にはテレビドラマ化もされ、2023年には台湾でもドラマ化されました。

作品概要

本作は、劇場型犯罪というテーマを扱い、その後の類似事件の頻発を予見していたとも評されています。作者の宮部みゆきは、連載開始の1995年に阪神大震災と地下鉄サリン事件が発生した騒然とした状況下で執筆を開始しました。宮崎勤事件に触発された本作は、冒頭でゴミ箱から右腕が発見される場面など、井の頭公園バラバラ殺人事件を参考にしています。犯人が犯罪を見せつけることで承認欲求を満たすという構造が特徴で、後の酒鬼薔薇事件など、現実の事件に影響を与えたとも言われています。

あらすじ

第一部

物語は、1996年9月12日の早朝、塚田真一が大川公園で女性の右腕を発見するところから始まります。同じ公園からは、失踪したOL・古川鞠子のハンドバッグも見つかり、マスコミは騒然となります。犯人を名乗る人物はテレビ局に電話をかけ、「右腕は古川鞠子の物ではない」と告げます。さらに、鞠子の祖父である有馬義男にも電話をかけ、孫娘を心配する有馬を翻弄します。その後、犯人の指示で有馬宛のメッセージを届けた女子高生の死体が発見され、鞠子の白骨死体も第三者の会社に送り届けられます。犯人の行動は、死者への冒涜、マスコミへの挑戦、そして被害者遺族への残酷な仕打ちとして、世間の怒りを買います。

11月5日、群馬県の山中で自動車が崖下に転落し、トランクから男性の死体が発見されます。運転していた栗橋浩美と助手席の高井和明も死亡しており、警察は彼らを連続女性拉致殺害事件の犯人と断定します。

第二部

物語は遡り、栗橋浩美と高井和明、そして彼らの同級生だった網川浩一、通称ピースを中心に展開します。栗橋は職に就かず、高井にたかる生活を送っていました。ある時、栗橋は過去のトラウマから衝動的に恋人と女子中学生を殺害してしまいます。彼は同級生のピースに相談し、事件の対処を依頼します。その後、栗橋とピースは連続女性殺害事件を引き起こし、以前に殺害した2名の罪もこの事件に紛れ込ませようとします。しかし、高井は栗橋の異変に気づき行動しようとしたため、栗橋とピースに殺害され、全ての罪を着せられることになります。

11月5日、栗橋は高井を呼び出し、高井の車に会社員の死体を積み込み山中へ向かいます。自殺に見せかけて高井を殺害しようとしますが、高井の説得により栗橋は動揺し、事故を起こしてしまいます。その結果、栗橋と高井は死亡します。

第三部

警察は栗橋と高井の自宅を捜索し、栗橋の自宅から右腕を切り取られた女性の死体と、監禁された女性たちの写真を発見します。警察は2人を連続女性拉致殺害事件の犯人として捜査を進めます。しかし、高井の妹・由美子は兄の無実を主張し、ルポライターの前畑滋子や有馬義男に接触します。そこに、栗橋と高井の同級生だったピースこと網川浩一が現れ、由美子の後見人としてマスコミに登場します。

網川は「高井は犯人ではなく、真犯人Xが存在する」と主張し、事件は新たな局面を迎えます。真犯人Xとは誰なのか？事件はクライマックスへと向かいます。

登場人物

網川浩一 / ピース: 知能が高く、カリスマ性を持つ人物。連続殺人事件を「社会が求める独創的なストーリー」と評し、事件を操ります。
栗橋浩美 / ヒロミ: 網川に劣等感を抱きつつも、彼にこびへつらう青年。過去のトラウマに苦しみます。
高井和明 / カズ: 栗橋と網川にいじめられながらも、彼らを気にかける優しい青年。視覚機能に障害を抱えています。
高井由美子: 和明の妹。兄の無実を信じ、事件の真相を追求します。
有馬義男: 古川鞠子の祖父。孫娘の失踪後も冷静に対処しようと努めます。
古川鞠子: 有馬義男の孫娘。連続女性誘拐殺人事件の被害者となります。
前畑滋子: ルポライター。事件の真相に迫ろうと取材を重ねます。
塚田真一: 教師一家惨殺事件の生存者。右腕の第一発見者となり、事件に関わっていきます。

映像化作品

映画（2002年）： 中居正広主演。監督は森田芳光。
テレビドラマ（2016年）： 中谷美紀主演。テレビ東京系で2夜連続放送。
テレビドラマ（2023年）： 台湾で制作され、Netflixで配信。