横井弘三

横井弘三：孤高の画家、民衆への愛

1889年、長野県飯田市生まれの横井弘三は、画家を志しながらも、父の反対により早稲田大学商学部に進学するも、2年で中退。東京電燈に就職しながら独学で油絵を学びました。26歳で二科展に入選、樗牛賞を受賞するなど、才能を開花させます。

画壇との決別と独自の活動

1923年の関東大震災後、被災児童のために描いた絵画を二科展に出品するも、審査員に拒否され、会友を返上して二科会を離脱。その後は、無審査で誰でも作品を発表できる展覧会を理想とし、「三科造形美術協会」「無選首都展」などに参加しました。しかし、これらの活動は長くは続きませんでした。


1929年には童心芸術社を結成し、1934年には創作オモチャン会を結成、第1回童心芸術社展を開催。さらに、念願だった無鑑査展覧会である日本初のアンデパンダン展を企画するも、二科会も同様の企画を進めたため、翌年には上野で2つのアンデパンダン展が開催されるという事態になりました。1937年には日本漆絵協会を創立しました。

戦時中と戦後の活動

第二次世界大戦中は静岡県浜松市、長野市に疎開。美術報国会への加入を拒否したため、絵の具の配給を受けられず、電気会社で徴用工として働きました。戦後は露天商をしながら絵を描き、長野工業高校などで美術教師を務め生計を立てました。しかし、創作意欲は衰えず、善光寺の白蓮坊で個展を開くなど、精力的に活動しました。1952年には信州新町水内小学校に100日間滞在し、地域の人々と交流を深めながら30余点の作品を制作しました。


1956年、南県町の裾花館に移住すると、焼絵やプラスチック顔料などの研究を始め、新技法や画材の開発に挑戦しました。1960年からは焼絵の普及に努め、長野や東京で個展を開催しました。


1961年、友人によって無断出品された作品が、一水会展で一般佳作を受賞。翌年、一水会の会員となり、その後も同展に出品しました。1965年、食道がんのため死去しました。

作風と人柄、そして交流

横井弘三の作品は、丹念に描かれた素朴な印象から「日本のアンリ・ルソー」と呼ばれました。各地を巡る写生旅行では、出会った人々から歓迎を受け、制作した作品は地元の人々に贈られ、現在も各地に大切に保管されています。経済的には恵まれなかったものの、多くの人々と交流を持ち、家族や子供への愛を生涯のテーマとしていました。「芸術は万人のもの」という信念を持ち、人々に愛された画家でした。

関連人物

横井弘三の生涯や作品には、多くの関連人物が登場します。画家仲間である有島生馬や木村荘八は、『油絵独歩記』に文章を寄せています。劇作家飯沢匡は、横井の評伝を書きました。絵本作家堀内誠一は1970年代に横井を再評価しました。また、宮沢賢治の『グスコーブドリの伝記』の挿絵も担当しています。

横井弘三の足跡

横井弘三は、画壇の主流から距離を置きながらも、独自の道を歩み続け、人々との交流を大切にした画家でした。その生涯と作品は、現代においても私たちに多くのことを語りかけてくれます。彼の作品、そして生き方は、これからも多くの人々に感動と勇気を与え続けるでしょう。彼の著作『油絵独歩記』『大愚』『油絵の手ほどき』などは、国立国会図書館デジタルコレクションで閲覧可能です。また、「横井弘三とオモチャン会」のTwitterアカウントでは、横井の軌跡をたどり、作品を発掘する活動が行われています。

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