横田切れ

横田切れ（よこたぎれ）

横田切れとは、1896年（明治29年）7月22日に新潟県を襲った、信濃川における未曽有の大規模洪水災害を指します。

災害の発生とその原因

この災害は、数日間にわたって降り続いた記録的な大雨が直接の原因となりました。大量の雨水が信濃川に流入したことで、河川の水位は危険なレベルまで異常に増大しました。増大した水の圧力に耐えきれず、新潟県西蒲原郡横田村（現在の燕市横田にあたる地域）の信濃川堤防の一部、約360メートルが最初に破堤したのをはじめとして、県内各地の合計874箇所で次々と堤防が決壊しました。

被害の拡大と甚大な影響

堤防の決壊によって解き放たれた濁流は、瞬く間に周辺地域を呑み込みました。洪水は下流へと広がり、新潟市関屋周辺まで広範囲が水没する事態となりました。浸水した面積は実に180平方キロメートルにも及び、当時の新潟平野は広大な湖のような状態を呈しました。家屋への被害も極めて甚大で、床下・床上浸水を合わせた被害戸数は4万3600戸に達しました。さらに深刻だったのは、家屋が激流に流され、基礎から失われた数が2万5000戸にも上ったことです。多くの人々が家を失い、避難生活を余儀なくされました。

被害は物理的な損壊にとどまりませんでした。特に低地では、浸水した水が長期間にわたり引かない地域が多く存在しました。夏を過ぎ、秋になっても水が滞留し続けた場所もあり、停滞した水は次第に腐敗し、衛生環境は急速に悪化しました。これにより、赤痢やチフスといった伝染病が爆発的に流行し、多くの被災者が病に倒れました。適切な医療体制が整わない中で、これらの伝染病によって尊い命が数多く失われ、災害の悲劇をさらに深めることとなりました。

治水への教訓と大河津分水路建設へ

横田切れの悲惨な被害は、信濃川の治水対策の必要性を改めて、そして強く社会に突きつけました。特に、蛇行を繰り返し、多くの支川が合流する下流部における洪水リスクの高さが浮き彫りとなり、抜本的な対策の必要性が広く認識されるようになりました。この災害を契機として、信濃川の水を人工的に日本海へ直接流すための「分水路」建設の機運がかつてないほど高まります。

具体的には、新潟県三島郡大河津村大川津（現在の燕市大河津）から同郡野積村（現在の長岡市寺泊野積）にかけての約10キロメートルの区間に、新たな水路を掘削する計画が具体化しました。これは後の大河津分水路計画へと繋がるものです。横田切れ発生からおよそ10年後の1907年（明治40年）には、この大河津分水路の本格的な第2期工事が着工されました。そして、多くの困難を伴う難工事を経て、1922年（大正11年）8月25日、ついに大河津分水路は完成し、通水が開始されました。大河津分水路の完成は、それまで繰り返されてきた信濃川下流の洪水被害を激減させ、新潟平野の治水と利水に画期的な変化をもたらしました。横田切れは、その後の信濃川における大規模治水事業の進展を促した、日本の河川災害史において重要な位置を占める出来事として記憶されています。

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