橋牟礼川遺跡:縄文から平安時代を繋ぐ歴史の宝庫
鹿児島県指宿市十二町に位置する橋牟礼川遺跡は、
縄文時代早期から
平安時代にかけての広大な
複合遺跡です。その歴史的価値は、
縄文時代と
弥生時代以降の文化層が明確に重なり、それまで不明確であった両時代の時間的関係を初めて学術的に明らかにした点にあります。戦前までは「指宿遺跡」として知られていましたが、現在は国の
史跡に指定され、日本の歴史を理解する上で極めて重要な遺跡として認識されています。
遺跡の発見と初期調査
1916年、旧制志布志中学校の生徒であった西牟田盛健さんが、偶然縄文式土器と弥生式土器を発見したことが、この遺跡の
発掘調査の始まりでした。この発見は、当時志布志中学校を訪れていた考古学者・喜田貞吉氏の目に留まり、鹿児島の考古学者である山崎五十麿氏に調査が依頼されました。その結果、縄文土器と弥生土器が同一遺跡から出土することが確認され、学術的な調査が本格的に開始されました。
その後、
濱田耕作氏と
長谷部言人氏によって
1918年から
1919年にかけて
発掘調査が行われ、地層の堆積状況から、縄文土器が弥生土器よりも古い地層から出土することが明確になりました。この発見は、それまで議論の的であった
縄文時代と
弥生時代の年代関係を、地層の層位関係という客観的な証拠に基づいて初めて実証した画期的な成果でした。
「弥生土器」の誤解と真の様相
初期の
発掘調査では、弥生土器と判断された土器が上層から出土したと報告されましたが、現在の研究では、それらは
古墳時代後期の「
成川式土器」であることが判明しています。これは、当時の考古学における土器分類の精度が現在に比べて低かったことによる誤解でした。しかし、この誤解は、
縄文時代が
弥生時代よりも古いという基本的な年代関係を覆すものではなく、橋牟礼川遺跡の学術的価値を損なうものではありません。
史跡指定と近年の研究
橋牟礼川遺跡は、その学術的な重要性から
1924年に国の
史跡に指定されました。
濱田耕作氏は、この遺跡の火山災害遺跡としての側面にも注目し、地層に含まれる火山灰層と歴史記録を比較することで、この遺跡を「東洋の
ポンペイ」と表現しました。
1988年には、874年の
開聞岳の大噴火によって埋没した集落跡が発見され、この集落跡は
1996年に国の
史跡に追加指定されました。現在では、遺跡公園として竪穴住居が復元され、一般公開されています。隣接地には
指宿市考古博物館(時遊館COCCOはしむれ)があり、遺跡に関する展示や解説を見ることができます。橋牟礼川遺跡は、考古学研究において重要な役割を果たしただけでなく、歴史と自然災害の両面から学ぶことのできる貴重な場所となっています。