喜田貞吉

喜田貞吉：歴史学・考古学・民俗学の融合と多岐にわたる貢献

喜田貞吉（1871年7月11日 - 1939年7月3日）は、明治から昭和にかけて活躍した日本の歴史学者、文学博士です。彼は、歴史学にとどまらず、考古学、民俗学といった隣接分野の知見を積極的に取り入れ、学際的な研究を推進しました。

生涯と学問の道

喜田貞吉は、現在の徳島県小松島市に生まれました。帝国大学文科大学で歴史研究を学び、内田銀蔵や黒板勝美といった同時代の学者たちと切磋琢磨しました。大学院では坪井九馬三の指導のもと、「日本の歴史地理」を研究テーマに定め、1899年には幸田茂友と共著で中等教科書『日本地理』『外国地理』を刊行。その後も大学で教鞭を執り、1909年には「平城京の研究・法隆寺再建論争」で文学博士号を取得しました。

南北朝正閏問題と研究活動

喜田の学究生活は、順風満帆とは言えませんでした。文部省で国定教科書の編纂に従事した際、小学校の歴史教科書における南北朝の記述を巡り、南朝を正統とする立場から非難を受け、休職処分となります（「南北朝正閏問題」）。

しかし、この逆境を乗り越え、1913年からは京都帝国大学、1924年からは東北帝国大学で教鞭を執りました。東北帝国大学では、国史学研究室の草創期を支え、奥羽史料調査部の創設メンバーとして東北地方史研究に尽力しました。また、縄文土器の研究においては、山内清男と「ミネルヴァ論争」と呼ばれる激しい論争を繰り広げました。

幅広い研究分野と業績

喜田貞吉の研究分野は多岐にわたりました。古代史、建築史、歴史地理学、民俗学など、幅広い領域で独創的な研究成果を発表しました。日本歴史地理研究会を組織し、学術雑誌『歴史地理』を発刊したことも、彼の業績の一つとして挙げられます。また、著作には『読史百話』『帝都』などがあり、多くの読者に影響を与えました。

郷土史研究への貢献と後進の育成

喜田貞吉は、郷土史研究の発展にも大きく貢献しました。特に、京都帝大時代に知り合った深澤多市が自費で刊行した『秋田叢書』の監修を務めるなど、後進の育成にも尽力しました。

研究史上の意義と評価

喜田貞吉は、独自の日本民族成立論を展開し、日本民族の形成史について歴史学・考古学の立場から多くの仮説を提示しました。しかし、「日鮮両民族同源論」を唱え、結果的に日韓併合を歴史的に正当化したと批判される側面もあります。一方で、法隆寺再建非再建論争においては、再建論を主張し、その正しさが後に証明されました。また、払田柵の初期の発掘調査を指導し、雄勝城が移転・再建されたものという見解を示しました。

著作一覧（一部）

『日本中地理』(1900年)
『国史之教育』(1910年)
『韓国の併合と国史』(1910年)
『読史百話』(1912年)
『帝都』(1915年)
『福神研究』(1935年)

喜田貞吉の学問的遺産は、今日においても高く評価されており、彼の研究は、日本の歴史学、考古学、民俗学の発展に大きく貢献しています。

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