橘大郎女

橘大郎女（たちばなのおおいらつめ）は、生没年不詳の飛鳥時代の皇族であり、聖徳太子の妃として歴史に名を残しています。彼女の父は尾張皇子であり、敏達天皇の皇子にあたり、推古天皇にとっては孫にあたる血筋です。位奈部橘王（いなべのたちばなのおおきみ）とも呼ばれ、白髪部王、手嶋女王という子をもうけました。

橘大郎女の名を不朽のものとしたのは、聖徳太子の薨去後に製作された天寿国曼荼羅繡帳（てんじゅこくまんだらしゅうちょう、または天寿国繡帳）です。622年に聖徳太子が亡くなると、橘大郎女は推古天皇に願い出て、采女たちにこの繡帳の製作を命じました。この繡帳は、聖徳太子の死を深く悼み、太子が死後に赴いたとされる天寿国の様子を描かせたものと伝えられています。

天寿国曼荼羅繡帳は、現存する日本最古の刺繍として非常に貴重であり、その芸術的、歴史的価値から国宝に指定されています。繡帳は中宮寺に伝えられていましたが、長い年月の間に大部分が失われ、現在ではわずかな残片が残るのみとなっています。残片は、当時の高度な刺繍技術や、飛鳥時代の精神世界を垣間見ることができる貴重な資料となっています。（詳細については、別項「天寿国繡帳」を参照してください。）

橘大郎女が製作を命じた天寿国曼荼羅繡帳は、単なる刺繍作品というだけでなく、聖徳太子への深い追悼の念と、来世での幸福を願う強い祈りが込められたものでした。彼女の行動は、聖徳太子という偉大な人物を支え、その死後も彼を偲び続けた橘大郎女の深い愛情と信仰心を示すものとして、後世に語り継がれています。

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